第54話 電話をしてきた幼馴染 (伸七郎サイド)

 俺、井登伸七郎は、今日、幼馴染の舞居子ちゃんに告白した。


 舞居子ちゃんの方も、俺のことを幼い頃から好きだったと言っていたので、受け入れてくれるものと思っていたのだが……。


 結局、心の整理が必要ということで、その場でのOKはもらえなかった。


 まあ、仕方がない。


 舞居子ちゃんの心の整理がつくまで待つしかないと思っていた。


 今は夜。


 まもなく午後十一時になろうとしていた。


 ジュースを飲みながら、くつろいでいると、舞居子ちゃんから電話がきた。


 俺は驚いた。


 舞居子ちゃんから電話がくることなど、最近は全くといっていいほどなかったからだ。


 メ-ルアドレスやルインの交換はしていなかったので、電話以外でのやり取りもすることはなかった。


 俺は一気に緊張していく。


 多分、今日の返事をしにきたのだと思う。


 いや、それしかないだろう。


 どういう返事だろう。


「伸七郎くんとは付き合うことができない」


 と言ってくるのだろうか?


 そう言われたら、当分は立ち直ることができないと思う。


 ああ、電話に出るのが怖い。


 しかし、電話にでないわけにもいかない。


 いい返事がくるのを期待するしかない。


 俺はそう思いながら電話をとった。


「こ、こんばんは」


 思わずドモってしまう俺。


「こんばんは」


 舞居子ちゃんの方も、今日は少し声の調子が違うような気がする。


 緊張しているのだろうか?


 その後、しばしの間、沈黙の時間が訪れる。


 俺の方から何か言わなければ、と思うのだが、声にならない。


 やがて、意を決したのか、ようやく舞居子ちゃんは話をし始める。


「伸七郎ちゃん、電話でごめん。しかも、夜遅くなって。でもどうしても話をしなければならないと思って電話をしたの」


「俺の方は大丈夫。で、話って?」


 なんとか緊張を抑えようとするが、なかなかうまくいかない。


「今日の伸七郎ちゃんの告白に対する返事をしようと思って」


「返事……」


 いきなり本題に入ってきた。


 断られるのか?


 それともOKしてもらえるのか?


 俺の今までの人生の中でも、最大級の岐路に立っていると言っていい。


 絶対にOKしてしてほしいと願う。


「わたし、あれから一生懸命伸七郎ちゃんのことについて考えたの。わたしは伸七郎ちゃんに比べたら、魅力もないし、つり合いもとれそうもない。一旦は、断ろうと思った。でもわたしは、伸七郎ちゃんのことが幼い頃から好きだった。夢は伸七郎ちゃんのお嫁さんになることだった。小学校の高学年の頃から、だんだん疎遠になってはいったけど、わたしは決して伸七郎ちゃんのことをあきらめていたわけではなかった。でもさすがに高校二年生にまでなると、サッカー部のホープと地味なわたしじゃ、付き合うのは無理だと思ってあきらめかけていたの」


「そう思っていたんだ……」


「そう思った時、伸七郎ちゃんが告白してくれた。とてもうれしかった。うれしかったんだけど、こんな地味なわたしでいいのかしら、もっと伸七郎ちゃんにふさわしい女性がいるのでは? と思ったの。それで、その場では返事ができなかった。ごめなさい」


「いや、あやまる必要は全くない。俺がいきなり告白したのがいけなかったんだ」


「あやまらなければならないのは、すぐに返事できなかったわたしの方。それで、家に帰った後、今までずっと悩み続けていたんだけど、伸七郎ちゃんへの想いがどんどん大きくなっていく一方だったの。多分、今まで抑え続けていた伸七郎ちゃんへの想いがここへきて抑えきれなくなったのだと思う。わたしは伸七郎ちゃんのことが好き。そして、ただ好きなだけでなく、恋の対象として好き。そのことを自分でもよくわかった。でも、それでもなかなか決断はつかなかった」

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