第53話 告白の返事を待つ俺 (伸七郎サイド)

 俺、井登伸七郎は、


「俺の方こそ、舞居子ちゃんがどんどん美人になっていくので、だんだん手のとどかないところに向かっていっている気がしていたんだ。舞居子ちゃんに告白してくる男性も、多くなっていたとは聞いていたし。でも俺は幼馴染なんだから、もし、その男性と付き合って幸せになっていけるのなら、喜んであげないといけないと思っていたんだ」


 と言った。


 それに対し、


「わたしは、今まで男の人の告白はすべて断ってきたの。その中にはフィーリングが合いそうな人もいた。でも、受け入れる気にはなれなかった。わたしの手のとどかないところに行ってしまった伸七郎ちゃん。でも心のどこかで伸七郎ちゃんのことを待っていたのだと思う」


 と言う舞居子ちゃん。


 告白すべてを断ってきたと舞居子ちゃんは言った。


 そしてそれは、俺のことを心のどこかで待っていたから、と舞居子ちゃんは言っている。


 疎遠になっても俺のことを思ってくれていたのだ。


 うれしくなってくる。


「俺は決して手のとどかないところには行っていないよ。舞居子ちゃんが好きという気持ちは幼い頃から変わらないんだ」


「わたしも伸七郎ちゃんが好きな気持ちは。幼い頃から変わっていない」


「これからは、その好きが、幼馴染としてではなく、恋人としての好きにしていきたいんだ」


「恋人としての好き?」


「俺は舞居子ちゃんと恋人になりたい。そういう気持ちが湧き立ってきているんだ。いや、こういう気持ちになったにはむしろ遅すぎたと思う。幼稚園の頃から、その気持ちは心の奥底にあったのに、それを今まで育てることができなかった。申し訳なく思っている」


「伸七郎ちゃん……」


「ごめん。今まで疎遠だったのに。急にこんな話をしてしまって。でも、俺は舞居子ちゃんを恋人にしたいと思っているんだ。その気持ちは受け取ってほしい」


 俺はそう言うと、頭を下げた。


 舞居子ちゃんはしばらくの間、どう応えるべきか悩んでいたようだったが、


「伸七郎ちゃん、ごめんなさい。わたし、今ここでは心の整理がつかない。少し時間がほしい」


 と言って、頭を下げた。


 俺は少し残念に思った。


 できればすぐに付き合うことへのOKをもらいたかった。


 しかし、断られたわけではない。


 心の整理に時間がかかるということを理解はできる。


 疎遠だった人に、いきなり付き合ってほしいと言われたら、困惑するだろうということは、想定はしていたことだ。


「いきなり告白をして申し訳ないと思っている。返事はすぐにとは言わない。待ってる」


「伸七郎ちゃんの告白、うれしいの。うれしいんだけど、いきなりの話で心が整わないし、伸七郎ちゃんは素敵だから、わたしは釣り合わない気がする。こちらこそ申し訳なく思っている」


「俺とつり合うとかつり合わないとか、そういうことは気にしないでほしい。俺は舞居子ちゃんのことが好きで、恋人どうしになりたいんだ。俺、舞居子ちゃんの返事を待っているから」


 こうして、俺は舞居子ちゃんに告白はしたものの、すぐにOKをもらうことはできなかった。


 舞居子ちゃんが心を整えている間に、俺への返事が、断る方に傾く可能性もないとはいえない。


 そうなった場合は、受け入れるまで待つしかないと思う。


 しかし、俺は舞居子ちゃんにその想いを伝えたので、きっとその想いに応えてくれるだろうと思っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る