第84話 乃百合さんの体は良くなっていく

 乃百合さんの体は回復に向かっていった。


 一日一日と良くなっていく。


 ただ、病状が急変する可能性はないとはいえない。


 その為、後、二週間近く入院することになった。


 その間、俺は毎日、午後になるとお見舞いに行った。


 乃百合さんは俺と毎日会いたいと言っていたし、俺も毎日乃百合さんと会いたかった。


 去年の夏休みは、ギャルゲーの資金を貯める為、バイトをしていた俺。


 今年の夏休みは、スーパーへ買い物に行くことぐらいしか外出はしていなかった。


 しかも、行くにしても朝か夕方で、昼暑い時に行くのは極力避けていた。


 家では、一学期までと同じく、勉強中心の毎日。


 趣味の時間をもう少し増やしたい気もある。


 しかし、勉強中心の生活にした結果、学年トップにまで成績を上げることができた。


 そして、高校二年生になって以降、その状態を維持することができている。


 二学期以降もこの状態を維持していきたい。


 そう思い、勉強中心の生活を維持し続けていた。


 それとともに、心を穏やかにしていく為の努力も続けなければならない。


 夜寝る前の読書の時間と、正座をして目を閉じる時間と、クラシック音楽を聴く時間を、今まで通り維持していた。


 ただ、もちろん夏休みなので、趣味の方にも力を入れないということではなかった。


 アニメ、アニソン、ギャルゲーを楽しむ時間を作っていた。


 特にギャルゲーは午後の一定の時間、プレイをすることが多く、楽しんでいた。


 しかし、その時間は、乃百合さんのところにお見舞いに行く時間に変わった。


 俺は昼の暑い最中に、自転車で病院に行く。


 青い空、濃い緑、蝉の声。


 猛暑日の続く中であるし、もともと俺は暑さに強い方ではないので、これは結構つらく苦しいことではあった。


 しかし、病院に着くまではそう思っていても、乃百合さんと会うとそういうつらさや苦しさは、あっという間に忘れることができた。


 そして、お父様もお母様も、乃百合さんと俺の二人きりでいる時間を作ってくれた。


 ご両親は、俺のことを気に入ってくれて、公認のもと付き合うことができるようになった。


 これはとてもありがたいことだった。


 毎回アニメの話を中心に話は盛り上がり、より一層お互いの距離が縮まってきた気がする。


 おしゃべりが終わることになると、


「俺、乃百合さんのことが好きです」


 と俺は必ず言う。


 乃百合さんも、


「わたしも海定くんのことが好きです」


 と言ってくれるようになった。


 しかも、心の底からその言葉を言ってくれているように思う。


 ルインでは既にそういう会話をしていたが、こうしてお互い会っている中でそういう会話ができるというのは、より一層うれしいものだ。


 ここまで来ているので、もう俺たちは恋人どうしだといっていい。


 俺たちはお互いの愛を伝え終わった後、見つめ合う。


 この先はキスというところになるのだけれど……。


 それ以上進むことができない。


 キスをすることを躊躇してしまう。


 俺は乃百合さんにキスをしたいと思っている。


 でも乃百合さんはそこまで望んでいるのだろうか?


 もう少し付き合って、お互いを理解してからにすべきでは、と思っているのでは?


 乃百合さんにどう思っているのか、直接聞けばいいのでは、とも思うが、その勇気がなかなかでてこない。


 乃百合さんが俺とのキスを受け入れてくれるかどうかがわからないのが、俺がキスするのを躊躇している大きな理由だ。


 そして、もし乃百合さんが俺とのキスを受け入れたとしても、まだまだ病人であるので、体をいたわらなくてはいけない。


 それもキスを躊躇する理由になっている。


 俺は乃百合さんと恋人どうしになったと思っているが、その仲をもっと深めたい。


 それにはキスをすることも大切なことになってくると思っている。


 乃百合さんの方も、俺と別れる時、いつも少し残念そうな表情をしているように思うので、もしかしたら、俺とのキスを望んでいるのかもしれない。


 そうだとしたら、キスまで進んでいいと思うのだけど……。


 ただ、それは俺の思い込みの可能性もある。


 乃百合さんが退院して、デートをする時まで待つべきだろう。


 今はこうして、乃百合さんとの仲をじっくりと深めていかなければならないと思う。

 そんなにあせることはない。


 前世と違って、もう生命の危機がやってくることはないはず。


 俺はより一層、乃百合さんが好きになり、その想いを伝えていく。


 そして、乃百合さんの心の支えになる。


 そうしていけば、乃百合さんと熱々の恋人どうしになっていけると思う。


 俺はこうした思いのもと、乃百合さんのところに通い続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る