第85話 お父様と俺
合計で二週間入院をした後、乃百合さんは退院した。
あれからは病状は悪化することはなかった。
一日ごとに体の状態が回復していき、退院の日を迎えている。
主治医とご両親も驚くほどの回復ぶりだった。
乃百合さんは、
「海定くんが毎日来てくれたからここまで良くなったのだと思います。海定くんには感謝の気持ちでいっぱいです」
と微笑みながら言ってくれた。
ご両親も、
「きみには感謝してもしきれない」
「ありがとうございます」
と感謝してくれていた。
俺は、
「乃百合さんが自分の力で体を回復させていったのです。わたしは乃百合さんが良くなるようにと一生懸命祈っていただけです」
と言ったのだが、ご両親は、
「自分のことを一切誇らないというのは、たいしたものだ。娘がここまで回復できたのはきみのおかげだ」
「あなたがいたからこそ、娘は回復できたのです」
と言う。
感謝してもらえるのは、ありがたいことだし、うれしいことだ。
俺は乃百合さんとご両親に、
「これからも乃百合さんの健康を願っていきたいと思います」
と言った。
俺の想いが、乃百合さんを健康にしていくことを願っていた。
今までと違い、体が強くなり始めているので、これからは生命の危機がやってくる可能性は少ないだろうと主治医は言っていた。
ただ、それでも通常の人よりは体が弱いので、体調については、今後も注意をしていかなくてはいけないということも言っていた。
それを聞いて俺は、乃百合さんの体調にこれからも配慮しながら、仲を深めていきたいと思うのだった。
その後、俺はお父様の要望で二人きりになった。
お父様は威厳のある方なので、
「二人きりで話をしたい」
と言われた時は緊張した。
乃百合さんと俺との今後についての話だとは想像していた。
しかし、話の方向性については、想像がつかなかった。
二人きりになると、お父様は。
「海定くん。娘を救ってくれてありがとう。わたしはきみのことが気に入った。わたしとしては、きみが娘と結婚して、婿養子になってもらいたい、わたしの会社を継いでほしいと思っている」
と俺に言った。
俺はとても驚いた。
俺は乃百合さんと結婚したいという気持ちは大きくなりつつあった。しかし、お父様の方からそういう話をしてくるとは、全くの予想外だった。
結婚だけではなく、会社を継いでほしいという話。
いくら俺のことが気に入ったからといって、今、業績が急上昇していて大企業の仲間入りをしようとしている会社の後継ぎになってほしいというのは、あまりにも話が大きくなりすぎているような気がする。
俺に今すぐ承知してほしいのだろうか?
乃百合さんとの結婚は望むべきことだが、後継者となると今の俺では荷が重すぎる。
「わたしは今まで、能力があると見込んだものたちは若くても抜擢してきたが、全員期待以上の働きをしている。業績が急速に伸びているのもそのおかげだと思っている。そのわたしが後継者と見込んだ人間だ。自分で言うのもなんだが、わたしは人の評価をきちんとできるタイプだと思っている。きみがまだ若いことはもちろん承知している。でも先程も言ったように、わたしは若い人間でも優秀であれば抜擢し、高い地位につけている。そして、全員その期待に見事応えてくれている。若いかどうかということは関係ない。能力が高いことが一番大切なんだ。そうしたわたしがきみを後継者にしたいと言っている」
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