第9話 俺の前世・るやのさんからの告白
十一月上旬のある日。
俺は。勇気を振り絞って、るやのさんを校舎の外れに呼び出そうとしていた。
しかし、教室で、るやのさんに、
「るやのさん、少し話がしたいです」
と話しかけたところまではよかったのだが、それ以上の言葉が出てこない。
るやのさんは驚いていた。
それはそうだろう。
るやのさんと俺は、親しい間柄ではなかったからだ。
しかし、るやのさんは、俺が黙っていると、真剣な表情になり、
「今日の放課後、校舎の外れまで来てくれます? 話をしたいことがあるので」
と言ってきた。
俺が言おうとしていた言葉。
でも、なぜそういうことを言うのだろう?
俺がそこに誘うのは告白の為。
るやのさんは俺に告白をしようとしている?
そんなはずはない。
るやのさんの方が俺に好意を持っているとは思えない。
まずは俺の方から告白して、付き合うのをOKしてもらい、少しずつるやのさんの俺に対する恋する心を育てていくしかない。
そう思っていると、
「来てくれますよね?」
と少し厳しい調子で言ってくる。
俺としては、もともとそこに呼び出すつもりではあったので、いい話であるとはいえる。
るやのさんの思っていることはわからない。
しかし、このチャンスを生かして告白をすればいいだろう。
俺は承諾をし、放課後を迎えた。
俺たちは校舎の外れで会う。
二人きり。
俺としては、この後、告白をするのだと思うと緊張してくるし、心が沸き立ってくる。
しばらくの間、お互いに黙り込んでいたが、やがて、
「倉森くん、わたしと付き合ってください」
と言ってきた。
るやのさんから告白してくるのは、百パーセントないと思っていた。
そして、俺が告白しても、九十九パーセント断られるだろうと思っていた。
それでもいいと思っていた。
いや、いいと思っていたというのは言い過ぎだろう。
でもここで告白しなければ、どっちみち暗い生活が続くのだ。
それならば一パーセントの確率にかけようと思った。
しかし……。
告白してきたのは、るやのさんの方だった。
俺はそれを聞いた瞬間、心が一挙に沸騰した。
誰の告白にも応じたことのない、るやのさんが俺に告白してきている。
信じられない気持ちだった。
俺がしばらくの間、夢心地でいると、
「受入れていただけますよね?」
とるやのさんは言ってくる。
学校一の美少女と言われる女性からそう言われて、告白を受け入れない男性など存在しないだろう。
「ありがとうございます。俺は冬沼土さんのことが小学校六年生の頃からずっと好きでした。俺の方から告白しようと思っていたのですが、今まで告白できないままきてしまいました。申し訳ありません。これからるやのさんを大切にしますので、よろしくお願いします」
俺は深々と頭を下げた。
「小学校六年生の頃からわたしのことが好き……」
「そうです」
るやのさんは驚いていたが、やがて普段の表情に戻る。
「あの、一言だけ言っていいでしょうか?」
「なんでしょう?」
「わたし、倉森くんに好意を持っています。だからお付き合いをしようと思いました。でも、恋というところまではまだ到達していません。これからのお付き合いを通じて、倉森くんに対しての恋する心を育てていきたいと思っています」
恋というところまでは到達していない……。
俺は一瞬ガクッとした。
俺はるやのさんのことが好きで、恋する心を持っていた。
るやのさんも俺と同じ気持ちだと思っていた。
でもるやのさんがそう言うなら仕方がない。
るやのさんが俺と恋人どうしになったと認識するまで、俺が努力するしかないだろう。
「わかりました。お付き合いをこれからよろしくお願いします」
「ではよろしくお願いします」
こうして、俺はるやのさんと付き合うことになった。
るやのさんが、
「恋というところまでは到達していない」
と言った時は、一瞬落胆した俺だった。
しかし、その後、俺はるやのさんと付き合える喜びに包まれていったので、それ以上苦しむことはなかった。
小学校六年生からの想いがやっと通じたのだ。
あまりの喜びに、その夜はなかなか眠れないほどだった。
こうして、るやのさんとの恋人どうしとしての付き合いが始まった。
とはいっても、一人ぼっちの時代が長かった俺は、付き合うということ自体がとても難しいものだった。
俺の前世は、まだルインがなかった時代。
学校以外では、メールと電話でのやり取りで、仲良くなっていくことになる。
俺はるやのさんのメールアドレスと電話番号をるやのさんより入手した。
告白した後の夜、思い切ってメールで、
「冬沼土さんが好きです」
と書いて送付したのだけれど……。
何の返事もない。
どうしたのだろう、と思い、その後も二度三度と同じようにメールをしたが、返事がないままだった。
るやのさんは、告白をしてくれた。
しかし、告白後、すぐにるやのさんが俺に話したように、まだ俺に対しては「好意」のレベルなのだろう。
俺に恋をするレベルまでは到達していそうもない。
付き合って間もないのに、いきなりメールで「好き」という言葉を送付するのは、あせりすぎてしまっていたということなんだろうなあ……。
俺は反省し、それ以降メールでは、あいさつとちょっとした話題しか書かないようにした。
そうなると、仲を深めていくには電話でのやり取りが必要になる。
俺はるやのさんと電話でやり取りをしようと思った。
しかし、今まで一人ぼっちの時代が長かったせいか、電話をかけるのも胸がドキドキしてうまくかけることができない。
電話をかけようにも、ボタンがなかなか押せないのだ。
彼女から電話をかけてくることはなかったので、電話でのやり取りはほとんどできない状態だった。
では学校ではどうかというと、これもうまくいかない。
恥ずかしさが先に立って、おしゃべりもロクにできない。
よくギャルゲーで昼ご飯を一緒に食べるシーンがあるが、誘うことも恥ずかしくてできず、夢のまた夢だった。
こちらも彼女の方から誘うことはない。
それでも学校でのおしゃべりは、少しずつできるようになってきた。
しかし、俺と話をしていても、どうも上の空ということが多いように思う。
どうも彼女の俺に対する好感度は上がっていかないようだ。
俺はるやのさんのことが好きだ。
結婚したいとも思っている。
でも今のままではだめだ。
おしゃべりもロクにできないようでは、仲を進めることはできない。
そう思った俺は、るやのさんをデートに誘うことにした。
しかし、それもなかなかうまくいかない。
何度か言うことができないことが続いたが、十二月上旬になって、やっとデートの約束を取り付けることができた。
長い道のりだった。
デートが決まった時、俺は踊り出すほど喜んだ。
俺の夏休みに行ったバイトの収入は、ギャルゲーに少し使ったぐらい。
後はほとんど使わずに貯めていた。
そのお金の一部でプレゼントを用意した。
デートについては、遊園地に行ったのだが、楽しい時を過ごせたと思う。
彼女もうれしそうな表情をしていた。
プレゼントについても、
「ありがとう」
と言って喜んでくれていた。
これで、俺とるやのさんとの関係は深まったと思った。
俺とるやのさんはお互いに名前で呼び合うようになり、「恋人どうし」としての認識も生まれてきていた。
この調子でもっと仲良くなりたいと思った。
そして、クリスマスの夜を一緒に過ごすという夢も近づいてきたと思っていた。
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