第40話 新作ギャルゲーで心を癒す

 六月上旬になった。


 雨の日が多くなってきて、梅雨が近づいてきた。


 あじさいがきれい。


 まだ肌寒い日もあるが、これから蒸し暑い日も増えてくるのだろう。


 そういった季節を迎えつつある。


 俺は結局、今まで乃百合さんとの仲を深めることはできなかった。


 できないどころか、あいさつさえもできていない。


 前世の状況と同じになってしまっている。


 すのなさんに振られて以降、自分磨きを一生懸命してきた俺。


 でもまだまだ乃百合さんにつり合うところまでは行っていない。


 その自分自身に対する自信のなさが、まずあいさつも躊躇しているところ。


 そして、乃百合さんが素敵すぎて。そばに行こうとするだけで恥ずかしくなる気持ち。


 これもあいさつも躊躇している理由。


 まだ、すのなさんに振られた時の打撃が、まだ残っていることもある。


 俺は、前世のるやのさんも今世のすのなさんにも恋をした。


 二人とも魅力がある女性で、俺の好みのタイプだった。


 だからこそ振られたことに対する打撃は多かった。


 今思うと、心の底の部分では、決して俺とその二人は合っていなかったし、俺の好きなタイプではなかった。


 容姿とか少し話をしたぐらいの印象で好きなタイプだと思っていたのだった。


 前世と同じことになってしまい、なぜ今世でも同じことを繰り返してしまったのだろう。


 そう思うと、つらさ苦しさがさらに増してくる。


 乃百合さんは容姿も好きなタイプだし、性格もいいと高い評価を周囲から受けている。


 そういう点からすると、付き合うことができるのであれば、酷い振り方はしないと思っているのだが……。


 乃百合さんと付き合ってもいないのに、振られた時のことを思ってもしょうがないと思う。


 しかし、もし付き合うことができたとしても、振られてしまったら、今度は立ち直ることができないくらいの打撃を受けてしまうのでは、という思いは、始業式の時よりも強くなってきている。


 そして、そういうつらい思いをするくらいであれば、このままあいさつもしない方がいいのでは、という気持ちも強くなっていた。


 この三つの躊躇している理由を乗り越えなくてはならない。


 そう思ってはいるのだが。乗り越えることはできず。何のアプローチもできていない。


 このままあいさつもできないまま、月日は過ぎ去っていきそうだった。


 一つの希望は、前世で瑳百合さんの方からあいさつをしてくれた六月上旬を迎えたこと。


 前世と同じであれば、もうまもなく乃百合さんの方からあいさつにきてくれるはず。


 しかし、一方では、あいさつに来てくれないのでは、という思いも根強い。


 俺はこれからどうしていくのがいいんだろう……。


 悩みは深まるばかりだった。


 俺は今まで、アニメを観たり、アニソンを聴いたり、ギャルゲーをプレイすることを趣味としてきた。


 これらの趣味は、俺の心を癒してくれていた。


 去年の十二月に、すのなさんに振られて以降は、勉強中心の生活に切り替えていたので、趣味に費やす時間は全体的に減らしていた。


 それまでは、ギャルゲーに相当の時間を費やしていたので、泣く泣くその時間を中心に減らしていったのではあるが、それでも趣味の中では一番時間を費やす状態が続いていた。


 趣味の時間が減っても、その趣味の時間で心は癒されていた俺。


 しかし、今回、悩みが深まることにより、さらなる心の癒しが必要になった。


 そこで、俺は新作のギャルゲーを購入することにした。


 毎日決めた時間内でプレイをするのだが、その時間は没頭することによって、心を癒そうとしていた。


 俺は心を穏やかにする為に、正座して目を閉じることも続けていた。


 そして、クラシック音楽を聴くことを毎日続けていた。


 これからもそれは続けていく。


 このことによって、俺は心を穏やかにしていこうと思っていた。


 しかし、この新作ギャルゲーが終わった後は、途端に悩みに襲われてしまう。


 あせりの心がだんだん大きくなってくる。


 向うからのアプローチを待っていてはいけない。


 とにかく勇気を振り絞ってあいさつをしなければならない。


 乃百合さんと仲良くなりたい!


 俺は強く思うのだった。

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