第41話 伸七郎
俺は乃百合さんとあいさつもできないことに苦しんでいた。
ただ、苦しいことだけではなかった。
俺に一つの救いがあった。
それは……。
俺に友達ができていた。
前世では一人ぼっちだった俺。
今世でも友達らしい友達はいなかったので、このまま一人ぼっちの状態が続くのだろうと思っていた。
井登伸七郎(いとうのぶしちろう)。
それが俺の友達の名前。
始業式の放課後、伸七郎の方から、
「俺は井登伸七郎。これからよろしく頼むぜ」
と話しかけてきたのが始まりだ。
サッカー部のホープ。
さわやかなイメージがある。
俺の学校のサッカー部は、今まで準決勝に行ったのが最高。
ある程度強いチームの方ではあるが、まだ全国大会に行ったことはない。
伸七郎は、
「今年は全国大会にでたい!」
と言っていて、一生懸命努力をしている。
たいした男だと思う。
そんなスポーツマンである伸七郎が、俺に声をかけてくることなどありえないと思っていた。
前世でも、伸七郎のようなタイプとは、友達になったどころか、話もしたことはない。
今世で初めてこういうタイプの人と接することになったといっていい。
驚いたことに、伸七郎はそれから毎日俺に話しかけてくるようになった。
最初は、気が乗らなかった。
しかし、伸七郎もアニメやアニソンやギャルゲーが好きで、同じ趣味を持っていることもあり、次第に話をするのが楽しくなっていった。
俺は前世でも今世でも、話す時はいつもていねいな言葉を使うようにしていた。
特にすのなさんに振られた後は、性格を改善するという意味があり、より一層ていねいな言葉を使うように心がけていた。
伸七郎に対しても、最初はそうだった。
しかし、伸七郎が、
「友達なんだから、砕けた言葉を使おうぜ。今のままじゃ堅苦しいからよ」
と俺に言ってからは、俺も砕けた言葉を使うようになった。
もちろん、使いはじめの頃は、ていねいな言葉と砕けた言葉が混じって、うまくいかなかったところもあった。
しかし、だんだんと慣れてきた。
砕けた言葉を使うことによって、伸七郎との仲もどんどん良くなっている気がしている。
昼休みも、二人で一緒に弁当を食べるようになっていた。
雨の日以外は屋上で。
今日の昼休みも屋上で食べている。
俺の弁当は、俺の手作り。
味には自信がある。
晴れていて、陽射しは強いが、さわやかな風が吹いていた。
弁当を食べた後、俺たちはおしゃべりをしている。
伸七郎は、
「お前ってすごいやつだな」
と言う。
「何が?」
「何がって、お前、成績がついに学年のトップになっただろう。これはすごいことだぜ」
「そうかなあ」
「そうだよ、たくさんいるライバルの中で、トップをとるなんて、たいしたものだぜ。俺なんか三十位に入るのがやっとなんだから。すごいとしかいいようがない。尊敬しちゃうぜ。友達としてうれしいよ」
「ありがとう」
アニメを観る時間や、アニソンを聴く時間や、ギャルゲーのプレイ時間を制限してまで、勉強に集中した成果が出たのだと思う。
これからも一生懸命努力していきたい。
「お前は、勉強もできるし、やさしさも思いやりも持っている。なんといっても、いいところだと思っているのは、そばでこうして一緒にいると癒されるということだ。たいしたやつだと思っている」
「それはさすがに褒めすぎだと思う」
「いや、いくら褒めても足りないくらいだ。この間のサッカーの地区予選の時、俺はお前に救われたんだ。あの日、お前は俺の試合を見に来てくれた。それだけでもうれしかったんだ」
「俺って、休日は、最近は制限しているとはいっても、家でアニメを観たり、アニソンを聴いたり、ギャルゲーをしたりするのが好きだから、外出することは少なかった。スーパーに行くくらいだな。だから、試合というものを観に行ったことがなかったんだ。でもせっかく友達になったんだから、その友達を応援したくなったんだ。お前がシュートを決めるかっこいいところも観たかったからな」
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