第42話 話は続いていく

 伸七郎と俺は、話を続けている。


「そのお前の期待にも応えなければならないと思って、いつも以上の力を出そうとしたんだ。でも情けないことに、俺はシュートを決められずに一対0で負けてしまった。結局、今回も準決勝止まりだった。俺はつらかった。ここまで一生懸命練習してきたのに……。そして、お前にも迷惑をかけてしまった。さぞかし落胆しているだろう。合わす顔がないと思っていたんだ。俺は悔しさ、そして、サッカー部の人たちとお前への申し訳ない気持ちで、一人涙を流していたんだ。そうしたら、お前は試合後。わざわざ俺のところに来てくれた。そして、『お前は一生懸命プレイしていたじゃないか。それはみんな理解してる。誰もお前のことを批判する人はいないよ。お前は優れたプレイヤーだ。それは、素人の俺だって理解できる。また次の予選があるじゃないか。今日の試合でうまくいかなかった点を直していけば、きっと次の予選ではもっといいところに行けると思う。前向きにいこう。お前ならきっとできる。これからも応援するぜ!』とやさしく言ってくれたんだ。俺はこの言葉に力をもらったし、癒された。そして、立ち直った。お前がいなかったら、今もまだ心が沈んだままだったと思う。ありがたいことだ」


「いや、俺は、お前を少しでも力づけたかっただけだ。立ち直ることができたのはお前の力だと思う。褒められるほどのことはしていないと思っている」

「そんなことはないぜ。そのお前の良さを、だんだん同じクラスの女の子たちが理解してきたと思うんだ。それが、お前のことを恋する気持ちに変化するのも、そう遠くはないと思っている」


「そんなことはないと思うけどなあ……。今まで、女の子の方から俺に話しかけてきたことなんて、なかったし。それはお前の買いかぶりじゃないのかなあ?」


「今まではそうだったかもしれない。でもこれからは違うぞ。お前に恋する女の子は、これから続出してくると思う。お前の方も、誰と付き合いたいかということを決める為の準備をした方がいいと思う。向こうから告白してくるのを待つだけじゃなくて、好きな人がいたら、お前の方から告白してもいいと思う。夏休みも近くなってくるし、二人でどこかへ出かけたりして、いい思い出を作りたいだろう?」


 伸七郎は、そう言って笑った。


 俺は少し恥ずかしい気持ちになる。


「お前の方はどうなんだ? 好きな女の子はそろそろ出て来そうだけど? お前も言う通り、夏休みが近づいてきたんだし」


 伸七郎は、サッカー部のホープで性格もいいので、女性にモテる。


 この間の地区予選でもファンらしき女の子たちが声援を送っていた。


 俺からすると、十分うらやましいのであるが、伸七郎本人は、


「俺は今、サッカーに夢中だから」


 と言って、全く興味を示さない。


 こういうところも大した男だと思う理由だ。


 まあ、


「サッカーに夢中なのは、変わらないよ」


 と今回も言うだろう。


 そう思っていると、伸七郎は少し表情が硬くなる。


 そして、


「これは相談というわけではないんだが、少し聞いてもらいたい話があってな」


 と伸七郎は言った。

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