第43話 伸七郎の幼馴染

 伸七郎は、俺に少し聞いてもらいたい話があると言った。


 サッカーのことではないだろう。


 それは、監督に聞くのが一番だ。


 とすると、もしかして恋の話ではないだろうか?


 そう思っていると、伸七郎は話し出す。


「俺には、隣のクラスに初林舞居子(はつばやしまいこ)ちゃんという幼馴染がいるんだ」


「それは知らなかった。初めて聞く話だ」


「話をしたのは今日が初めてだから、知らなくてもしょうがない。幼稚園の頃はよく一緒に遊んだ仲だった。小学生になってからも三年生の頃までは、時々遊んでいたんだ。幼稚園の頃の話だけど、『伸七郎くんのことが好き』と言われたこともある」


「幼馴染のいない俺には、それだけでうらやましい話だな」


「まあそれは幼稚園の頃の話だから、舞居子ちゃんの方は多分忘れていると思う、小学校三年生の頃まではよく遊んでいた俺たちだったけど、小学校四年生の頃からは、だんだん疎遠になってきた。クラスは三年生までは一緒だったけど、四年生から違うクラスになったのが大きかった。それでも会えばおしゃべりをしたことはしていたけど、中学生になってからは、会うこと自体も少なくなって、あいさつと少しぐらいのおしゃべりしかしない間柄になっていた。中学生の間、一度くらいは同じクラスになっていれば、そこまで疎遠になっていなかったかもしれない。高校もここで一緒になったけど、相変わらずクラスは別々になっている。相変わらず、あいさつと少しぐらいの話しかしていない仲だ。まあ、今まで俺は、サッカーに夢中になってたから、疎遠になっても、それほど寂しい思いはしてこなかったんだ」


「最近、寂しい思いをし始めたのか?」


「まあ。そんなところだな。俺は舞居子ちゃんに対して、今までは幼馴染以上の思いを持ったことはなかったんだ。幼い頃からかわいい子で、明るい性格をしていて一緒にいると楽しいので、男女両方から人気があった。俺にとっては、少々うるさい存在ではあったけど。でもそういうところもいいところだったと思う。小学校六年生の頃、初めて告白をされたそうだが、高校になってからは、結構な数の男に告白されたと聞いていた。とはいうものの、結局、誰ともまだ付き合ったことがないらしかった。誰を選んでも、舞居子ちゃんが幸せならそれでいいや、と思っていた。中学生の頃までは。でも高校生になると、少しずつ俺の心も変わってきた。舞居子ちゃんが誰と付き合っても、幸せであるならばそれでいい、という根本的なとことは変わらなかったけれど、告白されたという話を聞く度に心が少し動き、付き合っていないと聞くと、心のどこかでホッとしていたところはあったんだ」


「幼馴染を持っていても、難しいところがあるんだな……」


「自分でも、これから舞居子ちゃんとどう接していいかどうか、わからないところがったんだ。そうした時、つい先日、廊下で舞居子ちゃんが、クラスメイトの男と親しそうに話をしていたんだ。その男は、最近、舞居子ちゃんとの仲を噂されていて、俺の耳にもその噂が入ってきていたんだ。舞居子ちゃんに告白をしたかどうかはわからないし、もしされたとしても、舞居子ちゃんが告白を受けたかどうかもわからない。舞居子ちゃんに聞くわけにもいかないしなあ。もちろん、舞居子ちゃんもそいつのことが好きならば、俺がどうこういう立場ではないことは自分でも理解している。でも、なんだろう、なんだか複雑な思いがあるんだ」

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