第33話 先輩の恋人になっていくわたし (すのなサイド)

 言葉が雑になってくると。次は扱いが雑になってくるのでは、とも思わないでもない。


 わたしも、今までイケメン先輩と別れた女性たちのようになってしまうのでは、ということも、少しではあるが思わざるをえない。


 でもわたしはすぐに思い直した。


 イケメン先輩とは、恋人どうしとして付き合い出したばかりだ。


 これから仲を深めていけばいいと思っている。


 それよりまず、島森くんをあきらめさせなければならない!


 わたしは、


「さすがは先輩です。その作戦でいきましょう。よろしくお願いします」


 と言って、イケメン先輩に微笑んだ。




 一週間後、その作戦を実行するべく、わたしは島森くんを校舎の外れに呼び出した。


 もちろんイケメン先輩と一緒。


 島森くんが近づいてきたところで、作戦に入っていく。


「すのな、好きだ」


「わたしも先輩が好きです」


 わたしたちは抱きしめ合う。


 少し恥ずかしい。


 でもそれ以上に、心が甘くなってくる。


 そして、唇と唇を重ね合った。


「すのなさん、こ、これはいったいどういうこと?」


 予想通り、島森くんは打撃を受け始めている。


 より一層の打撃を与えなければならない。


「この状況を見てもわからないの?」


「わからないのであれば、もう一度教えてあげましょうか? ねえ、先輩」


 わたしが甘えた声で言うと、先輩もそれに応え、


「すのなは、きみに愛想をつかし、俺のものになったということよ。もう二人だけの世界にも入っている。彼女は俺に夢中になっているのさ」


 と爽やかに言ってくれた。


 島森くんは、この状況が信じられない様子。


 しかし、わたしをあきらめる様子はまだない。


 さらに打撃を与えなければならない。


 わたしは。


「わたしは先輩のことが大好きです、すべてを捧げてもいいくらい好きでたまらないのです。もう島森くんのことなどどうでもいいです。先輩ただ一筋なんです」


 と言った。


 この言葉は島森くんに大きな打撃を与えたようだ。


 島森くんは涙を流し始めている。


 でもわたしの心には同情の気持ちは全くなかった。


 それどころか、今すぐにわたしのことをあきらめてほしいと思っていた。


 しかし、島森くんは、


「俺は、俺は、すのなさんと小学校六年生の時に初めて出会ってから、ずっと好きでした。しかし、長年の間、好きだったのに、すのなさんに告白することはできませんでした。付き合うのは無理だと思うようにもなっていました。しかし、高校一年生の十一月に、すのなさんの方から告白されたんです。俺は、『海定くん、わたしと付き合ってください』というすのなさんの言葉を聞いた時、うれしくてたまらなかったんです。告白しようと思っていた女性に告白されたされたのですから。付き合いをし出して以降は、すのなさんのことを常に想い、気配りをしました。すのなさんにプレゼントもしました。もちろん、だからといって、それに感謝してほしいわけではないです。でもそれだけすのなさんのことが好きなんです。そして、もしかしたら結婚する女性ではないかと思ってきました。それなのに、イケメン先輩に浮気をするなんて……。でも俺はこんなことではめげません。すのなさんは俺の恋人。他の人の恋人ではありません。その気持ちに変化はないです。すのなさんの心が俺のところに戻ってくれば、それでいいと思っています。浮気したことについて、俺は何も言いません。俺のところに、俺のところに、戻ってきてほしいです!」


 と言って反撃をしてきた。


 わたしのことをあきらめていない。


 これは予想外のことだった。


 島森くんは、浮気したことについて、何も言わないと言っている。


 そして、自分のところに戻ってきてほしいと言っている。


 今回の作戦は、わたしとイケメン先輩との仲睦まじい姿を島森くんに見せつけることによって、大きな打撃を与え、わたしとの仲をあきらさせるものだ。


 大きな打撃を受けたはずなのに、あきらめない。


 島森くんをあきらめさせなければならない。


 わたしはイケメン先輩の恋人なのだ!


 わたしはそう強く思った。

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