第6話 遠くなっていく意識
すっかりまちはクリスマス気分。
俺は少し寄り道をしてまちを歩いていた。
もう周囲はすっかり暗くなってきて、きれいなイルミネーションがまちを彩っていく。
こうしたものを眺めれば、少しは心の痛みを癒すことができるのではないかと思った。
しかし、いつもなら心を浮き立たせて、癒しになりそうなものも、今の俺の心には全く届かないものになっていた。
癒しにはならない。
それだけならまだいい。
時々すれ違う楽しそうなカップルを見ていると、腹立たしささえ覚える。
俺だって、すのなさんと恋人どうしだったのに……。
今頃、イケメン先輩と楽しそうにしているのだと思うと、また涙があふれてくる。
もう、嫌だ……。
俺の家と学校との間には、公園がある。
池もあり、森もある結構大きな公園だ。
まちに寄り道をしてきた俺は、より一層疲れてきたので、公園のはずれにあるベンチに座ることにした。
雪は少しずつ強くなっている。
公園には灯りがあるが、俺の今いるところについては、人通りは全くといっていいほどない。
かさをさす気にもならなかったので、ここまでかさをささずにきた。
ベンチに座ってもかさはささないし、さす気もしない。
今の雪であれば、さすほどのことはないだろう。
そう思い、俺はベンチに座った。
それにしても、今日は酷い仕打ちを受けてしまったと思う。
失恋、それもただの失恋ではない。
他の男に恋人を奪われてしまった。
しかも俺の目の前でキスまでされてしまった。
これほどつらいことはない。
このまま生きていてもしょうがない。
これから雪が本降りになり、雪に埋もれてしまえばいいとさえ思う。
俺がそう思ったせいか、雪の降り方が激しくなってきた。
クリスマス……。
俺はこの日、すのなさんとデートをするつもりだった。
夏休みにバイトをして貯めていたお金で、高価なプレゼントを用意しようとしていた。
もしお互いの想いが高まっていけば、キスをすることもできそうな気がしていた。
それ以降にも進んで行きたい気持ちはなくはなかったが、とにかくキスまで行くことができればいいなあ、と思っていた。
そうした夢が今日、無惨にも打ち砕かれてしまった。
結婚したいと思うほど、俺の好みのタイプだったというのに……。
とはいうものの、もうどうにもならない。
すのなさんはイケメン先輩と、キスどころか、それ以上の段階まで進んでいる。
認めたくはないが、今日の仲睦まじい様子だと、認めざるをえない。
なぜそこまで一気に進んでしまったのだろう?
イケメン先輩と俺を比べても、そこまでの魅力の差はないように思う。
しかし、すのなさんにとっては、大きな差だったということなのだろう。
いずれにしても、もう俺の出る幕はない。
二人は相思相愛で、その間に入ることなどできないのだ……。
雪がますます強くなってきた。
視界がきかなくなってくるほどの激しい降り方だ。
俺の体は、雪に覆われてきていた。
寒いし、眠くなってきている。
このまま眠ってしまえば、あの世に行けるのだろうか?
まだこんなに若いのに、この世を去ってしまうのは悔しい気もする。
しかし、この心の苦しみから救われるのなら、それでもいいのかもしれない。
とにかくもう失恋のことで苦しみ、つらい思いはしたくない。
もういいや、どうでも……。
そう思いながら、俺の意識は遠くなっていった。
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