第26話 隣の席になりたい

 俺は乃百合さんとルインの交換をしようと思っていた。


 胸のドキドキと恥ずかしさはどんどん高まってくるが、それを乗り越えなければならない。


 気力を沸き立たせて、そういうものを抑え、乃百合さんに話しかけようとする。


 しかし……。


 チャイムが鳴った。


 それと同時に担任の先生が教室に入ってきた。


 二十五歳の美しい女性。


 生徒たちからの人気は高い。


 ホームルームの時間が始まる。


 先生は、


「わたしが暫定で決めた席にまず着きなさい。この後、くじ引きで正式な席を決めることにします」


 と生徒たちに指示する。


 後、もう少しで乃百合さんのルインアドレスを聞けたかもしれないのに……。


 俺の暫定席は、窓側の一番後ろにある乃百合さんの暫定席からは離れている。


 廊下側の一番後ろの席だ。


 一旦はそこに移動しなければならない。


 名残惜しいが仕方がない。


 次のくじ引きで、隣の席になることを願うことにしよう。


 隣の席になったとしても、ルインのアドレスを聞くことのできるチャンスはなかなかないかもしれない。


 でも話す機会自体はできると思う。


 それだけでも大きな違いだ。


 乃百合さんも俺に隣になることを願っているといいなあ……。


 そう思いながら、自分の暫定席に移動した。


 その後、先生が話しをし始める。


 なかなか長い話だ。


 その後は、学級委員長や学級内の役職決めが行われた。


 それが終わり、ようやく席替えの時がくる。


 待ち遠しかった席替え。

 それほど時間は経っていなかったが、席が乃百合さんと離れているというのは、それだけでもつらいものだ。


 もちろん、くじ引きなので、隣どうしになる可能性は高くはない。


 現時点のように、離れ離れになってしまう可能性の方が強い。


 それでも俺は、希望を捨てたくはなかった。


 乃百合さんの隣の席になり、仲良くなっていきたい!


 と思いながら、教壇のくじ引き箱に向かった。


 その結果は……。


 俺は乃百合さんの隣の席にはなれなかった。


 乃百合さんは暫定席より一つ前の席になっただけ。


 窓側のまま。


 俺も暫定席より二つ前の席になっただけで、廊下側のまま。


 席の位置は違っているとはいっても、離れ離れになっているのは前世と変わらない。


 こういうところは、前世と違う展開なることを期待していたのに……。


 俺はガックリした。


 乃百合さんはどう思っているのだろう?


 乃百合さんの方も、俺と隣の席になれなかったことを残念に思ってくれればいいんだけど。


 まあ、でもそれは無理な話だなあ……。


 そう思わざるをえなかった。




 休み時間にあると、乃百合さんのところに女の子が集まってきていた。


 その女の子たちすべてにやさしい微笑みを向けている。


 人気のあるところは前世と変わらない。


 こうなると、近づくことは難しくなる。


 前世と同じ状況が生まれ始めていた。


 しかし、今日乃百合さんと話すことができたのは、前世と違うところ。


 少なくとも、俺のことを意識はしてくれたと思う。


 しかし、このまま話しかけることができないと、俺に対する意識が薄らいでいく可能性があると思う。


 それは避けたいと思っていた。


 乃百合さんは、集まってきた女の子たちと楽しそうにおしゃべりをしている。


 俺も乃百合さんとおしゃべりができるようになりたい。


 大人数ではなく、二人だけで。


 俺はそう思うのだった。

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