第82話 乃百合さんの力になりたい

 俺は乃百合さんが眠っているベッドの横にあるイスに座ることにした。


 疲れ切ったその姿。


 今まで、この体で病気と戦ってきたのだと思うと、また涙がこぼれてくる。


 俺は乃百合さんの力になりたい!


 俺は心の中で乃百合さんに話しかけることにした。


 乃百合さんの心に通じるかどうかはわからない。


 それでも、俺は乃百合さんに話しかけていく。




 乃百合さん、俺はあなたのことが好きです。


 それは、今世だけのことではありません。


 前世でも、あなたのことが好きでした。


 あなたの前世での俺に対する気持ちは、わかりません。


 あなたの友達は、俺に好意を持っているといっていましたが、その好意はどれくらいのものだったのか、わからないままです。


 でも多分俺のことは嫌いではなかったのだと思います。


 そうであるならば、わたしは、前世であなたの恋人という形ではなくても、支える立場になるべきだったと思います。


 しかし、前世ではあなたに対し、俺は何の支えにもなりませんでした。


 特に、あなたが病気で苦しみ、つらい時に、支えになることは全くといっていいほどできませんでした。


 俺はそのことでとてもつらいを思いをしたのが大きく、前世の瑳百合さんがこの世を去ってから、あまり長く生きることはできませんでした。


 しかし、今世で生まれて、昨年の十二月までは、そのことを忘れていたのです。


 自分でも情けなくなります。


 前世のことを思い出すことができない人は、ほとんどだと言われています。


 俺が思い出せなかったのも仕方がないことだと思います。


 しかし、思い出せなかった為に、前世と同じく、好みのタイプだと思っていた女性に心の傷を大きく受ける形で振られてしまいました。


 あなたには、申し訳なく思っています。


 あなたに出会う前に、他の女性に心を動かされてしまったのですから……。


 俺はあなたにこの春の始業式の時に、今世で初めて会った時、瑳百合さんの生まれ変わりだということをすぐに認識しました。


 うれしい気持ちでいっぱいでした。


 俺はあなたに恋をしました。


 今世では告白をして、恋人どうしになりたいと強く思いました。


 しかし、あなたが俺のことをどう思っているかどうかはわかりませんでしたし、あなたの周囲にはいつも友達がいて、近づくことも難しかったのでした。


 ようやく六月の上旬に告白することができて、あなたにOKをもらい、あなたと付き合うことができるようになった時は、とてもうれしかったです。


 前世のあなたとは付き合うことができなかったので、付き合うことができたということは、これからは前世と違う人生になっていくのではないかと思いました。


 お互いに理解をし合い、恋を育んでいく。


 そして、想いを通じ合い、結婚まで進んでいく人生になることを期待していたのです。


 しかし、今回、あなたの病状は悪化し、生命の危機がやってきてしまいました。


 俺としては残念でなりません。


 前世とは違う人生になると思っていました。


 前世とは違い、病を乗り越えて、一緒に人生を歩んでいけると思ったのに……。


 しかし、これであきらめるわけにはいきません。


 俺はこれからあなたが生命の危機を乗り越えて、健康になっていくように祈っていきた

 いと思います。


 効果があるかどうかはわかりません。


 しかし、乃百合さんにとって、少しは力になることを信じたいと思います。


 乃百合さん、好きです、大好きです!




 俺は乃百合さんに話しかけた後、乃百合さんの手を握った。


 手を握ったことはまだほんの数回しかなく、手を握る度に心は沸き立っていた。


 それだけ乃百合さんは俺にとってもあこがれなのだ。


 今も心が沸き立っているが、そういうことを言っている場合ではない。


 どうか、乃百合さんが生命の危機を乗り越え、健康になりますように!


 俺は全エネルギーを込めて、祈っていくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る