第91話 デートの準備

 八月下旬。


 夜。


 明日はいよいよ乃百合さんとのデートの日。


 俺は乃百合さんとデートをしている。


 その時もかなり準備をしていた。


 準備をしてデートをしても、結局、後で振られてしまった俺。


 だからといって、何も準備をしないというのも極端すぎる話だ。


 もし準備をしないまま行ったのでは、やさしい乃百合さんでも、俺のことを嫌いにはならないにしても、いい気持ちには決してならないだろう。


 そこで、俺はすのなさんの時と同じく、ネットで情報を入手し、できるだけの準備を行った。


 そして、観る映画と、行く喫茶店、レストランの予約をした。


 費用については、全額俺が持つ。


 俺は、高校一年生の夏休みの時にバイトをしていて、その収入を貯めていたが、その一部はギャルゲーの他に、すのなさんへのプレゼント代として使ってしまっていた。

 しかし、まだまだ貯めたお金は残っているので、その分を今回使うことにした。


 乃百合さんからは、それでは申し訳ないと言われた。


 そして、


「わたしの生命を救ってもらったのですから、全額こちらが持ちたいと思っています」


 と申し出てきた。


 俺はそれに対し、


「今回は、初めての乃百合さんとの記念べきデートなので、俺がデートの全費用を持ちたいと思っています。お気づかいはありがたいです。うれしいです。そのお気づかいは受け取っておきたいと思います。でも乃百合さんが回復したのは乃百合さん自身の力で、俺の力ではありません。俺がデート費用を持つべきだと思います。申し訳ありませんが、今回は俺がデートでのすべての費用を持ちますのでよろしくお願いします」


 と言った。


 乃百合さんは、


「ぜめて費用は折半にさせてください」


 と申し出てきたが、これも丁重に断った。


 せっかくの申し出を断るのは、申し訳ない気持ちになる。


 乃百合さんは、ようやく今回、俺が全額持つことについては納得してくれたようだったが、


「では次回以降は折半させてください」


 と申し出てきた。


 乃百合さんの気づかいはありがたい。


 これについては、俺も従うことにした。


 今回は例外という位置づけだ。


 乃百合さんは、さらに、


「これから、海定くんの昼のお弁当を作らせてください。味については自信があります。きっと海定くんの気に入ると思います」


 と申し出てきた。


 乃百合さんの負担になるので、断るべきではないかと思ったが、熱心にすすめてくるので、これについてはOKした。


 乃百合さんはとても喜んでくれた。


 乃百合さんの負担になって申し訳ない気持ちはあった。


 しかし、二学期からの昼の手作り弁当を楽しみにする気持ちも強くなっていった。




 伸七郎にも以前からアドバイスをもらっていた。


 今日も電話をして、アドバイスをもらっているところ。


 伸七郎は、夏休みの間、初林さんとデートを何度かしたとのこと。


 海水浴にも行ったそうだ。


 うらやましい。


 俺にとって、その体験談によるアドバイスは、これからの指針になるものだった。


 それにしても伸七郎は俺の先を行っている。


 伸七郎は、昨日から今日にかけての初林さんとのことを、今、電話の中で話している。




 昨日、伸七郎はサッカーの練習が休みだったので、初林さんを泊まりがけで家に誘うことにした。


 伸七郎と初林さんのご両親は、二人が恋人どうしになったことを聞いていて、仲は両家公認になっていたそうだ。


 幼馴染がやっと恋人どうしになってくれたということで、祝福していたという話。


 伸七郎は初林さんに告白してから、恋人どうしとしての段階を進めたいと思い、家に誘いたいと思っていた。


 しかも泊りがけできてもらう。


 とはいっても、伸七郎の家には両親がいるので、来てもらうだけならば歓迎してくれるだろうが、泊りがけとなると、難色を示すと思われた。


 ところが、そんな時、伸七郎の両親と初林さんの両親が出かけることになったのだ。

 幼い頃は、両家で良く出かけていたものだが、最近は絶えていた。


 それが、伸七郎と初林さんが恋人どうしになったということで、祝いの意味もあって、一緒に旅行をすることになったのこと。


 伸七郎のお母様が出かける時、


「舞居子ちゃんを大切にするのよ」


 と言っていたそうなので、伸七郎や初林さんに気をきかせてくれたという意味もあったと思われる。


 両家のご両親とも、二人の仲が進むことを願っているようだ。


 こうして、初林さんは伸七郎の家に行き、一夜をともにすることになった。


 うらやましい限りだ。


 しかし……。


 伸七郎は絶好の状況になったにも関わらず、夜遅くなるまで、なかなかキスに進むことができなかった。


 決して、女性に興味がないというタイプではないと思う。


 夕方に初林さんが家に来て、晩ご飯を一緒に食べてからも、時間はいっぱいあった。

 それなのに、伸七郎は躊躇していた。


「俺、舞居子ちゃんのことは好きだ。告白もした。でもまだ幼馴染としての意識が残っていて、その意識が、舞居子ちゃんとこうして二人きりになったら、急激に吹き出してきた。キスをしたら、恋人としての段階が一気に進み、もう幼馴染に戻ることはできない。舞居子ちゃんとの幼い頃の思い出は、楽しいものでいっぱいだ。恋人としての段階が進むと、舞居子ちゃんが幸せになれるように、いつも努力をしていかなければいけない。もちろん、その努力はするのは当然だと思っているけど、もし幸せにできなければ、こうした幼馴染としての楽しい思い出が色あせてくるような気がしたんだ。恋人としの段階がさらに進むと、結婚ということになるけど、そうなると、もっと幸せにするための努力が必要になってくると思う」

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