第92話 仲を深めていく伸七郎と幼馴染

 伸七郎の話は続く。


「俺に舞居子ちゃんを幸せにする力はあるのだろうか? その力がなければ、そういう思い出は色あせるどころか、『幼い時は二人で一緒にいて、とても楽しかったのに』ということになってしまうかもしれない。それは、とてもつらくて苦しいことだと思う。キスをしてもいいのだろうか? 俺は舞居子ちゃんに告白したこと自体が間違っていたんじゃないのだろうか? こんな気持ちじゃ、舞居子ちゃんを幸せにはできないんじゃないだろうか? 俺は悩んでいたんだ」


 伸七郎は俺に電話でそう言った。


 普段はどちらかというと軽いイメージのある伸七郎だが、ここまで舞居子ちゃんの幸せを真剣に思っていたとは……。


 伸七郎は続けて、


「俺、お前に以前してもらったアドバイスを思い出したんだ。『お前は初林さんのことが好きなんだろう? いろいろ悩んでいるのだとは思うけど、出発点はそこだと思う。初林さんの方も、お前のことを好きだと思っているはずだ。そして、それはただの好きではなく、恋という意味での好きだと思っている。そうでなければ、疎遠になっていた幼馴染だったお前たちが、こうして恋人どうしになることはなかったと思う。お互い恋をし始めているのだから、まずは一生懸命、お前の気持ちを初林さんに伝えて、お互いの想いを高めていくことだけに集中した方がいいと思う。恋人どうしというものは、そういうものだと思う。お互いに努力をしていけば、やがて、心の底から愛し合っていけるようになる。そうすれば、幼い頃の思い出は色あせないものになっていくんじゃないかと思う。まとめると、お前に大切なことは、お前の気持ちを初林さんに伝えて、初林さんとの心の距離を縮めて、お互いの想いを高めていくことだと思う』とお前は言ってくれた。俺、お前のアドバイスに従って、俺の想いを伝えることにしたんだ」


 と俺に言った。


 その後も伸七郎の話は続く。


「恋人どうしとしての段階を進めると、幼い頃の思い出が色あせでしまうかもしれないので、これ以上初林ちゃんとの距離を縮めていいものかどうか悩んでいた」


「しかし、お前のアドバイスを受けて、お互いの心の距離を縮めて、お互いの想いを高めていくべきだと思った」


 そして、伸七郎は、初林さんに、


「俺は舞居子ちゃんが好き。もっと、恋人どうしとしての仲を深めていきたい」

 という自分の想いを伝えたという話。


 すると初林さんは、


「伸七郎ちゃん、わたしたちは恋人どうし。わたしは伸七郎ちゃんが好き。幼い頃からずっと好きだったけど、それは幼馴染として、今は違う。恋人として好き。わたしも伸七郎ちゃんが幸せになるように努力する。お互いに努力し合うものでしょう? わたしたちがやがて進んでいく夫婦というものは。それに、わたしたちが愛し合っているのであれば、幼い頃の思い出は色あせないと思う」


 と少し涙くみながら言ったとのこと。


 伸七郎は、この時、初林さんのことを一生愛し続けると思ったという。


「舞居子ちゃん、好きだ!」


「伸七郎ちゃん、好き!」


 二人は、抱きしめ合い、唇と唇を近づけてキスへと進んでいく。


 そして、ほどなく二人だけの世界へ進んでいった……。


 最後の方になると、さすがに伸七郎は恥ずかしそうに話をしていた。


 幼馴染という関係が恋人という関係に変化し、その一つの到達点である二人の世界に入っていく……。


 俺が理想的な男女関係の一つだと思っていることを、伸七郎と初林さんはやりとげた。


 特にキスをして、二人だけの世界に入ることができたというのは、二人にとって幸せいっぱいというところだろう。


 伸七郎を祝福したい気持ちは強くもっている。


 でも、うらやましいという気持ちも湧いてきていた。


 俺に幼馴染がいたら……。


 そう思わざるをえない。


 しかし、俺はすぐに思い直した。


 俺には乃百合さんがいる。


 幼馴染ではないけれど、前世からの知り合いだ。


 せっかく俺たちは恋人どうしになることができたのだ。


 後はこの恋を一緒に育てていくことが大切だ。


 まずは、明日のデートを成功させたい。


 伸七郎は、初林さんとの話をし終わると、


「俺はお前に助けられた、ありがとう。今度は、俺がお前を助ける番だな」

 と言った。


 俺のアドバイスが少しでも役に立ったのなら、うれしい。


 伸七郎は、その後、俺に、デートについてのアドバイスをしてくれた。


 ありがたいことだ。

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