第93話 デート当日

 そして、デートの当日。


 いよいよ乃百合さんとの仲を一気に進める時がきた。


 退院後、乃百合さんの体調もいい方で安定していて、


「もう普通の人と生活をしても大丈夫でしょう」


 と主治医も言っていた。


 それを受けて、


「デートでは、思いきり海定くんと楽しみたいです」


 と乃百合さんは言っていた。


 その期待に応えていきたい。


 乃百合さんのお父様には、


「自分の娘との結婚」


「自分の会社の後継者」


 という二点を要請されている。


 その要請に応える為にも、明日のデートを成功させて、仲を深めていく必要がある。


 そう思うと、緊張してくる。


 しかし、俺はすぐに思い直した。


 俺は乃百合さんのことが大好きだ。


 デートに俺の全エネルギーを集中していく。


 俺のすべてを捧げるつもりで。


 今日のデートでは、その熱い想いを乃百合さんに伝えよう。


 そうすれば、きっと、俺たちの関係はいい方向に向かっていく。


 俺はシャワーを浴びて、身だしなみを整えた後。家を出た。


 全体的には、おしゃれとまではいえないと思う。


 しかし、それでも俺なりに、身だしなみについては整える努力をしてきた。


 また、乃百合さんとのデートの時以上に、ネットでデートについていろいろ調べた。


 そして、伸七郎からのアドバイスももらった。


 計画は、きちんと立てられたと思っている。


 もちろん立てただけではなく、計画通りに進めていくことが大切だ。


 まだまだデートについては初心者でしかない俺。


 乃百合さんを失望させることだけはないと思っている。


 しかし、それだけではデートをする意味がない。


 伸七郎と初林さんのように、恋人としての段階を一段上げていきたい。


 それには、今日のデートを絶対に成功させなければならない。


 デート初心者ではあるけれど、それは、俺の乃百合さんへの熱い想いで乗り越えていくしかないと思う。


 乃百合さん、好きです!


 もっと、もっと、仲を深めていきたいです!


 俺はそう強く思いながら、歩いていく。


 もう九月が近づいてきているというのにまだまだ暑い。


 青い空と蝉の声。


 陽射しは八月上旬に比べると、少し弱まっている気はするが、暑さに強いとはいえない俺にとっては、結構つらいものだ。


 俺はその中を二十分ほど歩き、暑さに苦しみながらも、なんとか駅前まで来ることができた。


 後は駅前にある集合場所まで少し歩けばいい。


 集合時間は十二時だったが、それよりも二十五分前に到着することができそうだ。


 乃百合さんよりも先に着くことができて、待たせることはないと思っていたのだけど……。


 俺は集合場所に到着した。


 しかし、乃百合さんは既にそこに到着して、俺を待っていた。


「海定くん、こんにちは」


 微笑みながらあいさつをする乃百合さん。


 俺も。


「乃百合さん、こんにちは」


 とあいさつをした。


 白いワンピース姿。


 清楚そのものの姿。


 俺は乃百合さんにデートの時、着てきてほしいとお願いをしていた。


 その願いをかなえてくれたのだ。


 俺は心が沸き立っていく。


「乃百合さん、白いワンピースを着て、デートに来てもらって、ありがとうございます。うれしくてたまりません」


「そこまで喜んでもらって、わたしとしてもうれしいです」


「こんなに素敵な女性とデートできるなんて、夢のようです」


「素敵な女性だなんて……。褒めすぎですよ」


 乃百合さんは、顔を赤くしてうつむく。


 その様子がまたかわいい。


 そして、乃百合さんから漂ってくるいい匂い。


 心がますます沸き立ってくる。


 これだけでももう今日デートをした甲斐があったというもの。


 いや、まだデートは始まったばかり。


 まだ目的地にも着いていない。


 これから俺は乃百合さんに楽しんでもらい、仲を深めていく。


 俺は乃百合さんに、


「あの、そろそろ行きましょうか?」


 と恥ずかしい気持ちを抑えながら言った。


 乃百合さんは、


「そうですね。行きましょう。楽しみですね」


 と微笑みながら応えてくれた。


 これから電車に乗って、目的地に向かう。


 このかわいくて素敵な女性である乃百合さんとの仲を今日深めて、恋人としての段階を進めていきたい!


 そういう気持ちがますます強まっていく。


 俺たちは駅の構内に入って行った。

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