第94話 映画

 電車に乗ること三十分。


 そして、その最寄りの駅から五分ほど。


 俺たちはまず映画館に入った。


 中はなかななかの込み具合。


 今日観る映画は、人気テレビアニメの劇場版。


 異世界ものだ。




 幼馴染で、大人になったら結婚しようと誓った公爵家令息と男爵家令嬢。


 順調に愛を育んでいく二人。


 周囲の人々も、ラブラブカップルとして認識をしていた。


 公爵家令息の父公爵閣下以外は。


 公爵閣下は、二人が付き合うことについては認めていたが、家格の違いを理由に、結婚は絶対に認めないということを、二人が幼い頃から言っていた。


 ただ、二人が幼い頃は、


「今は幼いから仲良くしているけれど、二人が思春期を迎えれば、自然と二人の心は離れていくだろう」


 と思っていたようで、そこまで真剣に言っていたわけではなかった。


 しかし、思春期になっても二人の心は離れていくどころか、ますます接近していく。


 それとともに、公爵閣下は。


「お前たちがいくら仲が良くなっても、結婚は絶対に認めない!」


 と言って、その態度を硬化させていく。


 それでも二人は決して心が折れることはない。


 二十歳までに、婚約することを認めてもらおうと思っていた。


 公爵家令息は、何度も何度も公爵閣下と話し合い、認めてもらおうとする。


 そして、二人は、お互いの唇と唇も重ね合わせていて、恋人としての段階も進んでいた。


 ただ、それ以上に進むのは、婚約をしてからと決めていた。


 お互い、二十歳になり、婚約をするのを心待ちにしていた。


 婚約をしたら、二人だけの世界に入っていこうと思っていた。


 しかし、二十歳を前に、公爵閣下は、男爵家令嬢との婚約どころか交際も禁止してしまう。


 悲しみに暮れる二人。


 そして、男爵家令嬢は重い病気にかかってしまう。


 療養に一生懸命努めるのだが、一向に治る様子がない。


 それどころか、もう生命が失われるところまできていた。


 公爵家令息はいてもたってもいられなくて、男爵家令嬢のところへ行く。


 そして、愛する男爵家令嬢の為に一生懸命祈り続けた。


 わたしはこの女性のことが好きです。


 この女性の病気が治ってほしいです。


 そして、婚約、結婚をして、二人で幸せな生活がしたいです。


 その祈りが通じたのか、男爵家令嬢の病気は良くなり始める。


 やがて、男爵家令嬢は健康を取り戻すことができた。


 その後、公爵家令息は男爵家令嬢と一緒に婚約を認めてもらう為、公爵閣下のところへ行く。


 公爵閣下はなかなか認めてくれなかった。


 しかし、二人の愛に心を動かされ、ついに婚約を許可する。


 喜ぶ二人。


 そして、二人は婚約した後。結婚して幸せな人をおくっていったのだった……。




 話の内容は良いし、作画のレベルは高く、声優たちもいい演技をしていた。


 俺が今まで見た中でも一番いい映画だったと言っていい。


 俺たちは映画の途中から、ずっと手を握り合っていた。


 乃百合さんの手。


 やさしさが流れ込んできて、心が浮き立つ。


 クライマックスの、公爵家令息が男爵家令嬢の回復を祈るシ-ンでは、泣いた。


 乃百合さんも泣いていたので、胸が熱くなり、より一層涙が出てきた。


 そして、最後の、二人が結婚して幸せになっていくシーンでは、これからの俺たちもそうなって行きたいものだと俺は強く思った。

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