第95話 くつろぐ二人

 映画の後は、喫茶店に入った。


 紅茶を飲んでくつろいでいた俺たち。


 映画の感想を中心としたおしゃべりを楽しんでいた。


「とても素敵で、いい映画でした。特に公爵家令息が男爵家令嬢の回復を願って一生懸命祈っていたところは、海定くんがわたしの回復の為に祈ってくれたことを重ね合わせて、泣いてしまうほど感動しました。そして、二人が結婚して幸せになってよかったと思います。誘ってくれて、ありがとうございます。そして、改めて、わたしを救ってもらって、ありがとうございます」


「俺も感動して泣いてしまいました。乃百合さんと一緒に、こういう素敵でいい映画を観ることができてうれしいです。そして、俺自身は乃百合さんの役に立ったとは思っていないのですが、こうして乃百合さんの健康が回復に向かっていることもうれしいです」


「わたしも海定くんと一緒に映画を観ることができてうれしいです」


 乃百合さんはそう言って微笑んだ後、真剣な表情になった。


 そして、


「海定くん、これから話すことは、もしかしたら、理解ができないことかもしれません」


「理解ができないこと?」


「そうです。そして、もしかすると、嫌われてしまうことになるかもしれません」


「俺が乃百合さんのことを嫌うことはありえません。それだけ乃百合さんのことが好きなんです」


「そう言ってもらえるとありがたいです。それでは話をしてもよろしいでしょうか?」


「お願いします」


 乃百合さんは話をし始める。


「わたしは映画を観ている内に、前世のことが奔流のように心の中に流れ込んできたのです。全部と言うわけではありません。でも、かなりの部分を思い出してきています。先程も言いましたが、理解のできないことかも知れません」


「前世のことですか?」


 俺は驚いた。


 乃百合さんが前世のことを思い出してきている。


 前世の瑳百合さんは、前世の俺のことをどう思っていたのだろう?


 俺に対して好意を持っていたということは、俺が前世のことを思い出した時に、心の中に入ってきていた。


 その好意が淡い恋心になっていたらうれしいなあ……。


 俺はそう思っていた。


 乃百合さんは、


「はい。前世のことです」


 と言った後、続ける。


「前世のわたしは浜夏瑳百合という名前で、前世と同じで、病弱な子でした。大人になるまで生きるのは難しいだろうということを主治医の先生に言われていました。めげそうになることも多かったのですが、それでも一生懸命生きてきました。そして、いつしか素敵な恋をしたいと思うようになってきたのです。小学校高学年の頃から、カップルが周囲にでき始めると、祝福はもちろんしますけど、一方ではうらやましいと思う気持ちはどうしてもありました。この体ではどちらにしても無理だろうと思って。それでもフィーリングが合い、この弱い体でも受け入れてくれる男の人がいたら、恋人どうしになりたいなあ、と思っていたんです。中学校に入ると、こんなわたしでも告白してくれる男の人はいました。でも結局、フィーリングの合う人はいませんでした。フィーリングの合わなさそうな人と付き合うと、最初は良くても、結局はその付き合ってくれた男の人に迷惑をかけることになってしまいます。その為、全員、断ざるをえませんでした。申し訳ない気持ちになりました。こんなわたしでも告白してくれたのはうれしかったんですけど……。そして、わたしは高校二年生の春、始業式を迎えたのです」

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