第96話 乃百合さんの前世の話
乃百合さんの前世である浜夏瑳百合さんについての話は続く。
「高校二年生の始業式の日、わたしは、今度こそ素敵な出会いがあるといいなあ、と思っていました。そう思いながら、教室に入りました。しかし、どうにもフィーリングが合いそうな男の人はいません。まだ男の人全員が来ていたわけではないのですが、七八割はもう来ているようでした。少し落胆したわたしは、外を眺めていました。そうした状態がしばらく続いていたのですが、ふと教室の方を向くと、フィーリングが合いそうな男の人がいたのです。同じクラスの人。それが、前世での海定くんだったのです。当時はよくわからなかたのですが、前世での初恋だったのだと思います。前世では倉森喜康くんという名前でした」
乃百合さんが前世の俺の名前を思い出してくれている!
俺の心はますます沸き立っていく。
「こういうことを話していると、前世自体の存在を知らない人からすると、わたしの空想をただ話しているだけなのでは、と思うかもしれません。海定くんも、もしかすると、そう思っているのかもしれません。わたしたちが前世で同じクラスだったということを話す時点で空想だとしか思わないかもしれません。それだけではなく、嫌われるかもしれません。でも話を続けさせてもらえるとありがたいです」
乃百合さんが言っているように、前世のことを話すと空想のことだと思われて、嫌われるかもしれないと思っていたので、今までは、俺の方から前世のことを乃百合さんに話すことはなかった。
でも、今は乃百合さんの方から話をしてくれている。
俺は、俺の方からも、前世の話をするべきかどうか悩んだ。
しかし、まずは乃百合さんの話を聞いてからにすべきだと思った。
俺は、
「続けてください。お願いします」
と言った。
「ありがとうございます。それでは続けていきたいと思いますので、よろしくお願いします」
乃百合さんはそう言うと、話を続けていく。
「わたしは喜康くんとフィーリングが合いそうだと思ったのが好意を持った一番の理由です。おしゃべりをして、仲良くなっていきたいと思っていたのです。でも勇気がありませんでした。いつも喜康くんは一人でいたこともあって、話しかけづらい雰囲気がありました。話しかけたら、怒られてしまう気がしていました。ただわたしの方も、席に友達が来るようになってきて、おしゃべりを楽しむになることが多くなってきたので、なおさら喜康くんのところへ行くことが難しくなってしまいました。それでも今思うと、話しかけに行くべきでした。せめて、あいさつだけでも毎日するべきでした。こんなにフィーリングが合ってやさしい人なんですもの」
申し訳なさそうな乃百合さん。
でも乃百合さんの言う通り、前世での俺は、話しかけづらかったのだと思うし、そこは反省をしている。
もし俺が前世のことを思い出し、自分磨きを心がけようとしなければ、前世と同じことになっていたに違いない。
「喜康くんとおしゃべりどころかあいさつもできないまま、月日は経ち、六月を迎えました。ここでやっと、わたしは喜康くんとあいさつをすることができました。その時は、うれしかったです。これで、友達になる一歩が歩み出せたと思いました。ただ、喜康くんの気持ちはわからなかったのです。わたしに好意を持っていてくれたらいいなあ、と思っていました。しかし、それからも依然としておしゃべりができないまま。そうしている内に夏休みを迎えてしまいました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます