第97話 前世での想い
乃百合さんの前世の話は続く。
「わたしは夏休みまでに喜康くんと親しくなれなかったので、残念な気持ちになりましたが、夏休みを迎えて少し経った後に、病状が悪化して入院しなければならなくなったので、仕方がないことだと思いました。体が弱くて迷惑をかけることになるのだから、親しくならない方がいいと思い直したのです。ただ、入院している時は、それまでにない寂しさはありました。喜康くんがお見舞いにきてくれたら……。そう思ったこともありました」
前世の高校二年生の六月、俺は初めて瑳百合さんとあいさつをすることができた。
俺はその時、うれしかったが、瑳百合さんの方も喜んでくれていたとは思わなかった。
改めてうれしい気持ちが湧き上がってくる。
夏休みまでに親しくなりたいという気持ちが瑳百合さんにあったことは驚きだった。
当時の俺は、瑳百合さんが俺に好意を持ってくれているということが、全くわからなかった。
もう少しなんとかしたかったと思う。
「わたしの病状は、一旦は回復の方向になり、退院することができましたが、わたし自身はもうこの体は持ちそうもないと思いました。次に入院する時は、この世を去る時だと思ったのです。二学期になって、わたしは今度こそ喜康くんと親しくなりたいと思っていましたが、次第に体調が悪くなり、それどころではありませんでした。なんとか耐えていましたが、結局、入院することになったのです。両親や主治医は、わたしを励ましてくれました。しかいし、わたし自身は、後一週間も持たないだろうと思いました。それだけ苦しかったのです。わたしが思っていた通り、病状は急激に悪化していきました。友達やクラスメイトには、迷惑がかかると思い、伝えませんでした。喜康くんには、本当は伝えたいと思っていました。でも親しくないのに伝えるのは迷惑になると思い。伝えなかったのです」
俺としては伝えてほしかった。
伝えてもらい、瑳百合さんを励ましに行きたかった。
しかし、乃百合さんの言う通り、俺は瑳百合さんと親しくなることはできなかったので、励ましに行くことはできなかった。
俺がもっと親しくなる努力をしていれば……。
俺の方からアプローチをして、親しくなっていれば、こういう時、瑳百合さんの力になることができたかもしれないのに……。
「わたしの親友だけには病状の悪化を伝えてもらいました。彼女は、わたしがこの世を去る寸前、意識がまだある時に来てもらうことができました。わたしは、彼女に、喜康くんに伝えてほしいことがあるといいました。恥ずかしかったのですが、なんとか言いました。『喜康くんとおしゃべりがしたかった』ということを。わたしは、喜康くんと親しくなりたかった。その想いをこの言葉で伝えようとしたのです。彼女はこの言葉を伝えると涙ながらに言ってくれたのです。きっと、彼女はこの言葉を喜康くんに伝えてくれたのだと思います。そして、この世を去る時に、『喜康くんのような男性と今度は恋人どうしになり、結婚したいです』とお祈りをしました。喜康くん自身がわたしと同じ時に生まれ変わってくれるのが一番いいと思ったのですけど、喜康くんは、これから長い人生を歩んでいくと思ったので、わたしの生まれ変わりの時は、まだ喜康くんとして生きて続けていると思ったんです。それで、『喜康くんのような男性』というお祈りをしました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます