第73話 先輩はもう間に合わない

 イケメン先輩は、


「俺はイケメンで魅力的な男だから、二人が俺の恋人になるのも時間の問題だ」


 と言ってきた。


 俺はそれに対して、


「恋人どうしというのは、お互いのことを理解し合い、思いやりをし合い、大切に思い合うものだと思います。そして、お互いのことを愛していくものだと思っています。先輩は、イケメンで魅力的な男性なのかもしれません。しかし、相手に対してそういう気持ちで接したり、思ったりしたことはあるのでしょうか? 先輩は、今まで、女性と付き合っては、『飽きた』と言って別れてきたそうですね。そういうところからすると、先輩は、相手の女性を大切にしてきたとは思えません」


 と穏やかに言う。


「恋人というのは。俺にとっては、美人で一緒にいて楽しい存在であればいいのだ、それ以外に何が必要だというのだ?」


 先輩は足を止めて言う。


「先輩はかわいそうな人ですね」


「かわいそうな人だと? どういう意味だ?」


「恋人どうしになれば、普通はもっと心の底からお互いを愛し、楽しめるものだと思います。でも先輩は、そういうことが今までできていないように思いますので」


「心の底から愛したり、楽しめたりしたことがないのはお前の言う通りだ。しかし、俺はそれでいいと思ってきたんだ。表面上でも何でも楽しく過ごせればいいと思ってきた」


「相手のことを理解しようとしないからそうなるのだと思います。先輩、そろそろそういうところから脱皮すべきところにきているとわたしは思います」


「脱皮だと?」


「この二人については、先輩の恋人になるつもりはないとここで言っていますのであきらめてください。これはもう一度言わせていただきます。これから先、好きな相手が現れると思いますが、今までのように『飽きたら捨てる』のではなく、相手のことを理解していくことが大切です。そして、お互いを愛していく。そうすれば、心の底から楽しめるようになっていけると思います」


「なんと生意気なやつだ」


「先輩なら理解をしていただけると思います」


「理解はしたくない」


「理解していただけると思っています」


 俺は穏やかにそう言った。


 イケメン先輩は黙り込む。


 しばらくの間、対峙が続いていたが、やがて、


「俺はこの二人を恋人にしたい。その気持ちに変化はない。でもなぜだかわからないが、お前と話をしている内に、だんだん闘志が鈍ってきた」


 とイケメン先輩は悔しそうに言う。


「二人のことはあきらめて、もうお帰りください」


「あきらめたくない」


 イケメン先輩は強がっている。


 しかし、先程までの威勢のよさはもうない。


「今のお前は気品があるし、気力もみなぎっている。以前お前と対峙した時は、もっと弱々しい男だったのに……」


「先輩、あきらめてくださいますね?」


 俺は柔らかい口調ながらも、気力を込めた厳しい口調で言った。


 イケメン先輩は。


「なぜ俺はこいつの気力に負けているんだ……」


 とつぶやく。


 そして、


「ダメだ。俺はお前には勝てない」


 とうなだれてしまった。


「あきらめてくれますね」


 俺はイケメン先輩にやさしく言った。


「俺はイケメンだ。魅力がいっぱいある男だ。なんで、お前に勝つことができないんだ……」


 イケメン先輩はそう言うと泣き出した。


 そして、


「もう少しで二人は俺のものだったのに……。ここまでお前が二人の心をつかんでいるということは、もう俺は間に合わないということだ。ああ、残念で仕方がない……」


 とつぶやくと、そのまま校舎の方に、弱々しく歩いていった。

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