第74話 すのなさんの攻勢

 イケメン先輩は、俺との対決の結果、乃百合さんとすのなさんを恋人にするのをあきらめて、ここを去っていった。


 ホッとする俺。


「島森くん、ありがとう」


「ありがとうございます」


 乃百合さんとすのなさんは俺に感謝をしてくれていた。


 二人を守ることができて、よかったと思う。


 しかし、もう一つの問題が残っていた。


 すのなさんのこと。


 イケメン先輩が去っていくと、すのなさんは俺のところにやってきて、


「ありがとう、島森くん。いや、名前で呼ぶことにする。海定くん、わたしを守ってくれてありがとう」


 と言ってくる。


 そして、


「わたしを守ってくれたということは、わたしが好きだということよね。わたしも海定くんのことがこれでさらに好きになったから、もう相思相愛だよね。さあ、これからデートしましょう!」


 と言い出した。


「俺はすのなさんが先輩の恋人になるのを嫌がっていたから助けただけです。それ以上の意味はありません」


「遠慮することはないわ。わたしのことが好きなんでしょう? 昔わたしに告白してくれたのは、好きだったからなんでしょう? わたしは、その気持ちをもう一度受け止めると言っている。海定くんにとって、一番うれしいことでしょう?」


「すのなさんの言う通り、俺はすのなさんに夢中になって、告白をしました。そして、付き合うことになった時はうれしかったです。でもあなたはその後、先輩に心を奪われてしまった。二人だけの世界にも入ってしまった。そして、俺の目の前で、キスまでしてしまった。これがどれほど俺に打撃を与えたか、想像もできないでしょう」


「わたしはあなたの言う通り、先輩に心を奪われてしまったし。二人だけの世界にも入ってしまった。でもそれは先輩に魅力があったから。特にイケメンなのは大きかったわ。仕方のないことだと思う」


「仕方のないこと……」


「もうこれは過ぎてしまった話。今さらどうでもいい話だわ。わたしはもうイケメン先輩のことは忘れたいと思っている。わたしには海定くんがいる。これから海定くんと楽しい生活を過ごしていきたいと思っているの」


「イケメン先輩のことは、もうどうでもいいと思っているの?」


「そうよ。だって、わたしの目ので女性とキスをするほどの人ですもの。捨てられた時はなんとかわたしの方にもう一度振り向いてほしいと思ったわ。でもだんだん冷静になってみると、それほど魅力的には思えなくなってきたの。そして、今日の対応でしょう? 海定くんの方が、魅力があるということがよくわかったわ」


「それで、俺と付き合いたいと思っているんだ……」


「海定くんにとってもいい話でしょう? そう思わない? わたしのような美少女から誘っているのだから」


 確かにすのなさんは美少女で、俺好みの容姿は、昨年から変わっていない。


 いや、容姿については、より一層磨きがかかっている。


 しかし……。


 俺には乃百合さんがいる。


 乃百合さんのことが好きなのだ。


 もう俺は乃百合さん以外の人のことは想わない!


 俺は、


「すのなさん、俺の隣には夏浜さんがいる。大切な人だ。俺はこの人と付き合い、愛を育てていくということをもう決めたんだ」


 とやさしく言った。


「海定くん、わたしの方が美しいと思う。この人と付き合うより、わたしと付き合う方が絶対に楽しいと思う!」


 反論するすのなさん。


「いや、もう決断したことだ。俺は夏浜さんと幸せになっていきたい」


「どうして、そういうことを言うの? 今は幸せにするとかしないとかというより、楽しめるか楽しめないかが大切でしょう? わたしはそう思うわ。まだわたしたちは大人じゃないんだし。


 すのなさんはそう言った後、乃百合さんの方を向き、


「あなた、海定くんを楽しませる自信があるというの?」


 と言った。

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