第75話 乃百合さんの反撃

 すのなさんは、乃百合さんに対して、


「海定くんを楽しませる自信があるというの?」


 と言ってきた。


 それに対し、乃百合さんは、


「自信があるとは言えません」


 と応えた。


 すると、すのなさんは勝ち誇ったように、


「海定くん、聞いたわよね。この人は、海定くんを楽しませる自信はないと言っているわ。その点はわたしの勝ちだよね」


 と言い、続けて、


「なんでこんな人が海定くんと付き合っているのかしら。海定くん、今すぐこんな人と別れた方がいいわよ。そして、わたしと付き合って!」


 と言った。


 俺たちは、まだ付き合ってから間もない。


 お互いの理解はこれからしていくところだ。


 その中でお互いを楽しませることは難しいのかもしれない。


 しかし、


「楽しませる自信」


 がどれほど大切なものだというのだろう?


 それは一時的なものにすぎないと思う。


 すのなさんの言っていることは、イケメン先輩の言っていることと同じだと思う。


 俺は乃百合さんと、お互いに幸せになっていきたい。


 それは、付き合い始めた今から築き上げていくものだと思う。


 俺がそう言おうとすると、


「今は、島森くんを楽しませる自信はありません。でもわたしはそれ以上に大切なことがあると思っています。それは、島森くんのことを理解することです。わたしは今、一生懸命島森くんのことを理解しようとしています。理解をしていき、島森くんのことをもっと好きになって、仲を深めていこうと思っています。そうしたところで、少しずつ、島森くんと幸せというものを一緒に作っていけたらいいと思っています」


 と乃百合さんはやさしく言った。


 俺も同じ意見だ。


「ずいぶんまどろっこしいことを言うわね。わたしなら、今すぐにでも海定くんを楽しませることができるのにね」


 すのなさんはそう言った後、俺の方を向き、


「わたしと夏浜さん、どちらを選ぶつもりなの? もちろんわたしよね?」


 と言ってくる。


 自信に満ちたものの言い方だ。


 でももう俺の言うことは決まっている。


「すのなさんは魅力のある女性です。そのことについては、俺もそう思っています」


「ではわたしを選ぶのね」


「でも俺は夏浜さんのことが好きなんです。愛しています。もちろん、まだまだ付き合い始めたばかりですけど、俺は夏浜さんと愛を育てていきたいと思っています。そして、結婚というところまで到達したいと思っています」


 その言葉を聞いて恥ずかしがる乃百合さん。


 すのなさんは、


「結婚ですって?」


 と叫ぶ。


「そんなこと、わたしが許すはずないじゃないですか。第一、この人はそこまで海定くんのことを想っていないでしょう? わたしでさえ、大人じゃないんだから、そこまではまだ思い描いてはいないというのに。そうでしょう? 夏浜さん。海定くんは結婚のことを言っているけど、あなただって、結婚のことを思い描いたことなんて、今までしたことはないわよね?」


 すのなさんは乃百合さんに相槌を求めている。


 それに対して、乃百合さんは、


「わたしは結婚ということ自体は思い描くことはあります。ただ島森くんとの結婚となると、わたしのような人でいいのだろうか? と思ってしまうことが多いのです。島森くんは素敵な人なので、島森くんとの結婚を思い描くのはなかなか難しいところがあります」


 と応えた。

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