第2話 俺から離れていく恋人

「さあ、これでわかっただろう。きみはもうすのなの恋人ではない。俺がすのなの恋人になったのだ。もうきみの時代は終わった。これからは俺の時代になっていく。俺がすのなと楽しい時を過ごすことになるのだよ」


 勝ち誇ったように言うイケメン先輩。


「わたしは先輩の恋人になれて、これほど幸せなことはありません。好きです、先輩」


 うっとりとした表情のすのなさん。


「そんな……。冗談でしょう? すのなさん、冗談で言っているんでしょう?」


 俺は藁をもつかむ気持ちですのなさんに言う。


 しかし……。


「冗談でこんなことを言うわけがないでしょう? もう島森くんとは何の関係もない。赤の他人になったのよ」


 すのなさんの冷たい言葉。


 そして、


「すのなの言う通りだ。すのなは魅力というものが全くないきみにあいそをつかし、俺を選んだんだ。なあ、そうだろう?」


 と言って、イケメン先輩はすのなさんに同意を求める。


「先輩の言う通りです。イケメン先輩に比べたら、島森くんは魅力などないに等しいです」


「そうだろう、そうだろう」


 俺はだんだんつらい気持ちになってきた。


 イケメン先輩は、俺からみてもイケメンだ。


 その点はかなわない。


 でも俺のこと、『魅力などないに等しいです』と言うことまではないのではないかと思う。


 ついさっきまで恋人だった男に言うべき言葉なんだろうか?


 しかも、俺の目の前で堂々と浮気をしている。


 このままでは心の中がコントロールできなくなりそうだ。


 しかし、ここでなんとかしなければ、もうすのなさんは俺の手の届かないところに行ってしまい、それこそイケメン先輩のものになってしまう。


 俺は自分の心を立て直して、反撃をすることにした。


「俺は、俺は、すのなさんと小学校六年生の時に初めて出会ってから、ずっと好きでした。しかし、長年の間、好きだったのに、すのなさんに告白することはできませんでした。付き合うのは無理だと思うようにもなっていました。しかし、高校一年生の十一月に、すのなさんの方から告白されたんです。俺は、『島森くん、わたしと付き合ってください』というすのなさんの言葉を聞いた時、うれしくてたまらなかったんです。告白しようと思っていた女性に告白されたされたのですから。付き合いをし出して以降は、すのなさんのことを常に想い、気配りをしました。すのなさんにプレゼントもしました。もちろん、だからといって、それに感謝してほしいわけではないです。でもそれだけすのなさんのことが好きなんです。そして、もしかしたら結婚する女性ではないかと思ってきました。それなのに、イケメン先輩に浮気をするなんて……。でも俺はこんなことではめげません。すのなさんは俺の恋人。他の人の恋人ではありません。その気持ちに変化はないです。すのなさんの心が俺のところに戻ってくれば、それでいいと思っています。浮気したことについて、俺は何も言いません。俺のところに、俺のところに、戻ってきてほしいです!」


 俺としては、大きな勝負に出たつもりだった。


 すのなさんに、この想いが届くことを強く願っていた。


 しかし、すのなさんは、


「魅力がない人がよく言いますわね」


 と俺のことをあざ笑う。


 俺はまたしても打撃を受けたが、


「でもすのなさんは、俺に告白をして、付き合ってくれました。『あなたのことが好き』って言ってくれたし、ルインでもそう書いて送付してくれました。俺のことが好きじゃなかったら、そういうことはしないはずです。俺のことが好きだからこそ、俺に告白をしてくれて、今まで付き合ってくれたんだと思っています」


 と切り返した。


 そうだ。


 すのなさんは、俺のことが好きだったはずなのだ……。


 その気持ちを思い出してもらいたい。

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