第14話 前世の俺・縮まらない距離
俺は瑳百合さんとあいさつをすることができた。
ここまでくるのに既に二か月が経っている。
俺は瑳百合さんと、一学期の終業式までに、ある程度仲が良くなって、夏休みに一気に仲を深めたいと思っていた。
瑳百合さんの水着姿を楽しみにする気持ちもほんの少しあった。
それには瑳百合さんとあいさつだけではなく、おしゃべりもしていくことが必要だ。
そして、その次の段階として、メールでのやり取り、電話でのやり取りもしていかなければならない。
しかし、俺にはハードルの高い話だった。
その後、おしゃべりどころか、あいさつもできない状態が続く。
だんだんあせってくるが、相変わらず瑳百合さんのそばには人がいることが多く、話しかけることは困難だった。
とはいっても、無理をすれば話しかけることは全くできなかったわけではなかった。
ただそれを当時の俺に求めるのは、無理な話だった。
瑳百合さんのような素敵な人に俺が近づいていいものだろうか、という気持ちがあり、無理をしてまで話しかけるのは、瑳百合さんの迷惑になってしまうという気持ちの方が、話しかけたいと思う気持ちをいつも上回っていた。
こうして俺が躊躇している内に、夏休みを迎えることになった。
終業式が終わり、一人孤独に家に帰った俺は、自分の情けなさに涙した。
二学期こそは、瑳百合さんと仲良くなりたい!
そういう気持ちをもって、孤独な夏休みを過ごして行く。
しかし、夏休みもまたつらい日々だった。
まだ学校では、手の届かない存在ではあっても、瑳百合さんの姿を眺めることはできた。
それだけでも大きな違いだ。
夏休みは、瑳百合さんの姿すら眺めることができない。
高校一年生の時は、ギャルゲーを買う資金を貯める為、バイトをしていた俺。
しかし、この夏休みは、そういう気力はなくなってしまっていた。
趣味、特にギャルゲーでなんとか心を癒す俺。
一日中プレイをした日もあった。
ただそれも限度があった。
瑳百合さんに対する想いはますます強くなっていく。
登校日がその中でも救いではあった。
しかし、それまでに、仲の良い女の子たちと楽しい日を過ごしていたこともあったのだと思うと、そこでもつらい気持ちになる。
この夏休み、二人きりの思い出を作りたかったのに……。
瑳百合さんと海水浴に出かけて、水着姿をほんの少し楽しみにしていたのに……。
そう思っても、どうにもならなかった。
無念の思いを抱いたまま、夏休みは終わった。
去年に続いて、いや、いつものことではあるが、孤独な夏休みだった。
それでも去年はバイトをしていただけ、孤独感は少し薄まっていた気がする。
しかし、今年はそういうこともなく、ずっと孤独感で覆われていた。
特に、瑳百合さんのことを思い続けた俺にとっては、今まで以上につらい夏休みだった。
これからの二学期こそ、瑳百合さんと仲良くなって、孤独から脱出したいと思っていた。
夏休みの間に、俺の瑳百合さんへの想いは、ますます強くなっていた。
しかし、今のままでは、どうにもならない。
心機一転、瑳百合さんにアプローチをしようと思っていた。
二学期の間に仲を深めていく。
そして、クリスマスの夜をも一緒に過ごす。
これが俺の大きな目標だった。
とはいっても、二学期になっても、相変わらず状況に変化はなかった。
せっかく心で強く思っても、教室に行くと、瑳百合さんの周囲の人たちに圧倒されてしまう。
そして、
「瑳百合さんの迷惑になる」
という気持ちに勝つことがどうしてもできなかった。
瑳百合さん、俺はあなたのことが好きなのに……。
夜、家で何もできない自分に、ただ涙することしかできない毎日が続いていたのだった。
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