第15話 前世の俺・入院

 九月中旬のある日。


 俺がいつものように心が沈んだ状態で教室に入ると……。


 なんと、瑳百合さんが病気で入院したという情報が入ってきた。


 クラス中、その話をしている。


 みな心配そうな表情をしていた。


 それだけ男性にも女性にも人気があるということだろう。


 俺も病状がとても心配になった。


 大したことがなければ、と思う。


 とにかく病状が知りたかった。


 病状を知る為には、瑳百合さんの親友の女の子に話を聞く必要があった。


 今まで、女性と話すことは苦手な俺だったが、そうは言っていられない。


 俺は勇気を振り絞って、その女の子に瑳百合さんのことを聞いた。


 彼女は、普段女性と話さない俺が話しかけてきたので、驚いた様子だった。


 それでも彼女は、把握している限りのことを教えてくれた。




 彼女によると……。


 もともと瑳百合さんは体が弱く、子供の頃から悩まされていた。


 小学生の頃までは、入院することもあったし、病院に定期的に通っていた。


 中学生になってからは、入院することはなくなったそうだが、それでも体の弱さは変わらないまま。


 定期的な病院通いは続けざるをえなかった。


 高校生になってからも、入院するほどではなかったが、病院に通わざるをえなかった。


 体はいつもつらくて苦しい状態だったに違いない。


 それでも常に周囲の人たちに対して笑顔で接していた。


 瑳百合さんと小学校の頃からの親友だという彼女は、瑳百合さんが愚痴を言ったり、弱気なことを言ったり、絶望的なしぐさをするところは、一切なかったと言っている。


 その瑳百合さんが、この夏休み、病状が悪化して一週間ほど入院をしていた。


 登校日の後のことだった。


 そのことは、俺と今話をしている女の子と他数人しか知らなかった。


 一旦は退院することができたが、昨日の夜から病状がまた悪化してきたという。




 瑳百合さんの体が弱いという話は、今回初めて聞いた。


 病気と戦い続ける壮絶な人生だったのだ。


 俺は涙を流しそうになっていた。


 こんなにつらく苦しい人生だったなんて……。


 普通病気で苦しんでいると、笑顔でいるのはなかなか難しいように思う。


 しかし、俺たちにいつもやさしい微笑みを向けてくれる瑳百合さん。


 その笑顔はとても素敵なものだ。


 その笑顔を生み出すには、病気による苦しみに打ち勝つ必要がある。


 俺には、想像もできない努力があるのだと思う。


 俺はあまりにも瑳百合さんのことを知らなすぎた。


「ありがとう」


 俺は話をしてくれた女の子に感謝すると、そのまま屋上へ向かった。


 そのまま教室にいると、悲しくて、泣き出しそうになったからだ。


 とはいっても、屋上で景色を眺めても、いつものように心が癒されるというわけではない。


 俺は、胸から熱いものが込み上げてくるのを一生懸命我慢した。


 瑳百合さんの病気がすぐにでも治ってほしい!


 俺は強く願っていた。




 俺は瑳百合さんのお見舞いに行きたいと思った。


 しかし、瑳百合さんとは、今までほとんど接点がない。


 俺は瑳百合さんのことが好きだ。


 でもそれはただの片想い。


 そういう人間がお見舞いにいっても、迷惑になるだけでは、という気持ちが強かった。


 それに、病状が悪化したといっても、生命には影響しないだろうと思っていた、


 病状が回復して退院したら、今度こそ仲良くなっていきたい。


 そう思っていたのだった。


 しかし、瑳百合さんが入院して一週間後……。

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