第100話 手を握り合う二人
俺は乃百合さんに自分の前世のことを話した。
乃百合さんは、ずっと俺の話を聞いてくれていた。
そして、乃百合さんは、
「海定くんは、長生きしてくれるものだと思っていたのに……。わたしのことでそんなにも苦しみ、つらい思いをし続けて、結局、短い生命で終わってしまっていたなんて……。わたし、全然そのことを知りませんでした。わたしが思い出せたのは、自分がこの世を去るところまででしたので……。申し訳ない気持ちでいっぱいです。前世の夏休み前にせめて喜康くんの気持ちに気がついていれば、と思います。ごめんなさい」
と言うと涙を流し始めた。
「いや、俺が短い生涯で終わったのは、乃百合さんに何の救けも励ましもできなかった心の弱さだと思います。それが、体を壊すことにつながってしまいました。乃百合さんが謝ることではありません」
「海定くんは、本当にやさしい人です」
「そう言っていただいてありがとうございます。前世で短い人生で終わってしまったのは、残念なことでした。俺としては、もう少し生きていたかったと思います。ただ俺にとっては、決してマイナスなことだけではなかったと思います。前世で短い人生だったので、乃百合さんと同じ時期に生まれ変わることができたような気もします。それはたまたまだっただけなのかもしれません。しかし、俺は、こうして乃百合さんと同じ時期に生きていることを大切にしたいと思っています。乃百合さんが好きです」
「わたしの方こそ、そう言ってもらってありがとうございます。わたしも海定くんと一緒にいられる人生を大切にしたいと思っています。わたしも海定くんが好きです」
乃百合さんは涙を拭くと、少し微笑んだ。
俺は、
「しかし、俺は、乃百合さんに謝らなければなりません。今度生まれ変わる時は、乃百合さんの恋人になりたいと思っていたのに、そのことをずっと思い出すことができませんでした。そして、前世の時と同じく、違う女性の容姿に心を動かされて、その人すのなさんを好きになり、付き合うようになってしまいました。しかも、その後、彼女をイケメンの男性に奪われてしまうという……。この結果も前世と同じでした。自分でも何をやっていたんだろうと思います。乃百合さんには、申し訳ない気持ちでいっぱいになっています」
と言った後、乃百合さんに頭を下げた。
このことについては、いくら穏やかな乃百合さんでも、嫌な思いをしているかもしれないと思っていた。
しかし、乃百合さんは、
「仕方のないことだと思います。前世のことを思い出せる人はほんの一握りだと思います。わたしたちが、前世のことを思い出せたのは奇跡的なことだと思っています。わたしのことを思い出すことも難しいことだったと思います。それに、前世でのわたしたちは来世で結婚することを約束した間柄ではありませんでした。もし約束をしていれば、高校二年生まで会わないということはなく、もう少し近い間柄、幼馴染のようなところで、お互いに生まれてきた可能性が強い気がします。そして、池土さんの容姿は、わたしたち女性の間でも学校で一番と言われるほどのものでしたから、前世でわたしと結婚の約束をしてはいない海定くんが心を動かされてしまったのも、仕方がないことだと思います。謝ることではありません。大切なのは、これからわたしたちが、お互いに恋する心を育んでいくことだと思っています。わたしも先程言った通り、海定くんへの想いを抑えていたところがありましたが、これからは違います。海定くんへの想いをもっと熱くしていって、それを伝えていきたいと思います」
と少し恥ずかしそうにしながら言ってくれた。
俺は胸が熱くなってくる。
「乃百合さんこそやさしいです。ありがとうございます。もう俺は乃百合さん一筋です。前世でできなかった分、俺は乃百合さんの力になり、乃百合さんの為に尽くしていきたい、と強く思っています」
「ありがとうございます。うれしいです」
「これから乃百合さんの言う通り、お互いに恋する心を育んでいきましょう」
「海定くん……」
「乃百合さん……」
乃百合さんと俺は、手を握り合うのだった。
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