第4話 致命的な打撃
唇と唇を重ね合い、うっとりしているすのなさんとイケメン先輩。
俺はただ唇をかみしめて、耐えるしかなかった。
やがて、二人はお互いに唇を離す。
「これできみも理解しただろう。もうすのなは俺のものになったのだ。なあ、すのな。そうだろう?」
「そうです。わたしは先輩のものです」
すのなさんは、甘くとろけた表情をしている。
俺に対しては今まで一度もそういう表情を見せたことはないというのに……。
「もうあきらめな。きみではこの美しい女性とは釣り合わないんだ。釣り合っているのは、イケメンである俺だけだ」
「先輩ったら……。美しい女性だなんて、褒めすぎです」
「きみのことは褒めすぎることはないと思っている。これほどの美しい女性はこの世に存在しないと思っているくらいなんだ」
「先輩、ありがとうございます。好きです」
俺は心に打撃を受け続け、だんだん立っているのもつらい状態になってきた。
二人は俺の目の前で、その親しさを強調するべく何度もキスをしている。
そして、すのなさんはイケメン先輩と、二人だけの世界に既に入っているという。
俺の心は壊れる寸前まで来ていた。
このままでは、ここで倒れてしまいそうだ。
でもこのまま倒れるわけにはいかない。
俺はすのなさんのことが好きだ。
すのなさんのことはあきらめたくない。
「先輩が俺のことをどんなにけなしても、すのなさんがどう思っていても、俺は、俺は、すのなさんのことが好きなんです。すのなさんは俺の恋人なんです!」
俺は最後の力を振り絞って、その想いをすのなさんに伝えた。
この想い、通じてくれ!
俺はすのなさんと恋人のままでこれからもずっといたい!
俺の哀願だった。
しかし、
「俺たちのラブラブぶりは充分見せつけてやった。それでもあきらめないとは、どうしょうもないやつだ。こんなわからずやのやつに、もう構うことはない。そろそろ行くことにしよう」
とイケメン先輩はすのなさんに言う。
「そうですね。これだけわたしたちが親密なのに。それを理解しようとしないのですから。もうここを離れた方がいいと思います」
「よし、決まった。それじゃ、これからデートしよう。いいね」
「もちろんです。今日も一緒に楽しみたいと思います。
「そうだな。じゃあ、行こう」
イケメン先輩は、すのなさんの手を握ると、そのままここを去ろうとする。
「ちょっと、二人とも待ってください」
俺は弱々しい声で呼びかけた。
もう気力はなくなってきているが、このまま二人が去っていくのをただ見送るだけにもいかない。
俺は小学校六年生の頃からすのなさんのことを思ってきた。
あきらめたくはない。
「まだ言いたいことがあるのかな? もうきみはすのなさんとは赤の他人だというのに」
イケメン先輩は冷たい声で言う。
「もう話は終わったのよ。これからわたしは先輩とデートをするんだから、じゃましないでくれる!」
すのなさんの方も厳しい表情。
どうしてそんな表情をするんだ……。
そして、なんで、
「じゃましないでくれる!」
と言うんだ……。
俺は、倒れそうになるのをなんとか我慢し、その場にしがみこんだ。
涙が目からあふれてくる。
「もうこれで俺たちに抵抗する力もなくなったようだ。これから電車に乗って別のまちに行ってデートしよう。そして、楽しい時間を過ごすことにしよう」
「はい。行きましょう。先輩」
二人は手をつないだまま、ここを去っていく。
楽しそうな二人。
それに対して、恋人を奪われてしまい、みじめな状態にある俺。
俺は二人をただ見送ることしかできなかった……。
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