第12話 前世の俺・素敵な同級生

 教室の外を眺めている女の子。


 どこか儚げな姿。


 ストレートヘア。


 俺の好みのタイプで、その点は、前世のるやのさんと今世のすのなさんと同じなのだが、二人とは決定的に違うところがあった。


 それは、やさしさにあふれ、かわいくて、素敵な微笑み。


 もちろん二人の微笑みも気にいってはいた。


 しかし……。


 今思うと、二人の微笑みにはやさしさがあまりなかったように思う。


 微笑み一つにも人柄が現れるということなのだろう。


 俺が二人に受けた仕打ちからすると、今の俺であれば理解ができる。


 ただ、俺は、前世ではるやのさんに夢中になっていて、それがわからなかったし、今世でも同じようにすのなさんに夢中になっていて、それがわからなかった。


 この人こそ俺の理想の人なんだ……。


 俺はその女の子に一目惚れをした。


 浜夏瑳百合(はまなつさゆり)さん。


 それがその女の子の名前だった。


 俺はその日以降、瑳百合さんのことのみを想うようになった。


 瑳百合さんと仲良くしている夢も見るようになった。


 残念ながら、いつも告白する寸前で目が覚めてしまうので、気分はいいものではなかったおだけれど……。


 しかし、今度も現実は厳しい。


 瑳百合さんは才色兼備。


 成績は常に五番以内。


 絵もうまい。


 料理もうまいという話しだ。


 それでいて、周囲の人たちに対して偉ぶるところは全くない。


 どんな人にもやさしく接し、男性女性、どちらの人気も高い。


 こんな素敵な人に対して、平凡な人間でしかない俺が釣り合うわけはなかった。


 周囲の男性たちがほっとくわけがなく、小学校の頃からたくさん告白を受けてきたそうだ。


 ただ、そのすべてをやさしく断ってきていて、今まで誰とも付き合ったことがないという。


 もし俺が告白したとしても、同じように断られてしまうだけだろう。


 しかも、俺は失恋を経験した男だ。


 あのようなつらい思いは二度としたくはなかった。


 とはいうものの、毎日瑳百合さんの姿を眺めていると、心が沸き立ってきてしまう。


 瑳百合さんと付き合いたい。


 付き合ってキスしたい……。


 でも現実は、会話一つできない状態。


 瑳百合さんとおしゃべりをしている女性たちや、たまにそれに加わってくる男性たちを見ていると、全員楽しそうでうらやましくてしょうがない。


 せめて、おしゃべりだけでもしたい。


 二人きりでおしゃべりをしたいけど、それが無理ならば、おしゃべりをしている人たちの中に入りたい。


 それだけでもできれば、少しは心が癒されるのに……。


 しかし、おしゃべりをしている人の中に入ることは、俺にはハードルが高すぎた。


 高校二年生になって、好意的に俺に話しかける人は出てきた。


 とはいうものの、それはほんの少数。


 そういう状態の俺が、その中に入ったとしても、すぐに周囲の人たちから嫌がられてしまうだろう。


 そうすれば瑳百合さんだって嫌な気持ちになってしまうに違いない。


 俺は瑳百合さんとおしゃべりすることもできないのだ……。


 少し心の状態が良くなり始めていた俺は、また苦しみに襲われるようになった。


 こんなことなら、瑳百合さんのことを好きにならなければいいのに、と思うこともあった。


 それでも瑳百合さんへ対する想いは強くなる一方。


 瑳百合さんと仲良くなりたい!


 そう強く思っても、あいさつでさえもできない状態が続いていた。

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