第47話 今日の伸七郎の話
その日の夜。
俺はベッドの上に座っていた。
紅茶を飲みながら、今日の伸七郎との話を思い出している。
伸七郎は、
「これは相談というわけではないんだが、少し聞いてもらいたい話があってな」
と言ってから、幼馴染との関係について、俺に話をし始めた。
俺には幼馴染はいない。
その為、逆に俺は幼馴染というものに対して、無上のあこがれを持ってきた。
好きなギャルゲーでも、幼馴染キャラを一番最初に攻略する。
今まで攻略してきたキャラも、好きなトップ五は、幼馴染キャラで占められている。
幼馴染と仲の良いまま一緒に成長して、思春期を迎えるとともに、だんだんとそれが恋に変化していく。
そして、熱愛状態となって結婚し、一緒に幸せになっていく。
俺が理想とする人生の一つだ。
残念ながら、俺は前世ではそれを実現することができなかった。
付き合った女性はいたが、ものの無惨に捨てられてしまう。
その後、今度こそ理想の女性と出会えた、と思ったのもつかの間。
何のアプローチもできないまま、その女性はこの世を去ってしまった。
俺もその心の打撃が大きく、その後この世を去ってしまう。
決していい人生であったとはいえないと思う。
今世では、少し改善されるかもしれないと、前世でこの世を去る時は思ったのかもしれないが、今思い出しても、状況はほとんど改善されていない。
幼馴染は前世と同じくいなかったし、付き合った女性を奪われてしまったのも同じだ。
その後、理想の女性と出会った。
その状況も前世と同じ。
出会った始業式の時、前世でできなかったあいさつはすることができた。
しかし、その後の展開は、前世と同じくアプローチができないまま。
幼馴染として、夏浜さんと出会っていれば、今頃は、恋人どうしとして、楽しい毎日を過ごすことができたのに……。
そう思わざるをえない。
そう言う意味では、今日の伸七郎の話は意外なものだった。
幼い頃はよく遊んでいたが、だんだんと疎遠になり、今ではあいさつと少しぐらいの話しかしない仲になっているという。
初林さんのことは、俺はよく知っているわけではないが、美少女だと思う。
いくらクラスが違うようになって、疎遠になったからといっても、幼馴染であるならば、意志の疎通は他の男よりもたやすいと思う。
そういうアドバンテージがあるのに、なぜアプローチしないのだろう。と思う。
伸七郎の話を聞いていて、俺はそのことを強く思った。
もちろん幼馴染だと、親しすぎてあこがれというところまでいかないことが多いと聞いてはいた。
あこがれにならないので、恋愛というところまで到達しないという話だ。
恋愛にまで発展しなければ、疎遠になっていくのも、理解できない話ではない。
しかし、それでも幼い頃から親しんできた二人が、恋というところまでその仲を育て上げていき、結婚にまで到達するという、愛のあふれた素敵な人生にあこがれてしまう。
せっかく伸七郎と初林さんは、そういう人生をその気になれば歩むことができるのに……。
俺はそう思い、今日、伸七郎には告白をするようにアドバイスをした。
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