第59話 乃百合さんとのあいさつ
俺は伸七郎と初林さんと校門のそばで話をした後、教室に入った。
ホームルームまではまだ時間がある。
俺は屋上に行くことにした。
前世とは違い、朝、屋上に行くことはあまりない。
特にここ一か月ほどは全くいっていなかった。
それが今日は行く気になった。
もしかすると、前世のように屋上に行こうとしないので、乃百合さんとのあいさつができないのでは?
それが行く気になった大きな理由だ。
とはいうものの、屋上に行くことが目的ではない。
行こうとするところで、乃百合さんにあいさつをされるのが目的だ。
ここで、乃百合さんにあいさつをされた後、俺が乃百合さんに、
「放課後、話をしたいことがあります」
と言って、乃百合さんを誘う。
そして、乃百合さんに告白をして、恋人どうしになる。
これが今、俺が思い描いていることだ。
思うだけでも胸がドキドキしてたまらない。
しかし、前に進むしかない。
とにかくまずはあいさつ。
これができないことには、その先のことは成り立たなくなる。
俺は教室へ出て屋上へ向かおうとした。
前世と同じく、ここで乃百合さんにあいさつをしてほしい!
俺がそう思っていると、乃百合さんが一人で歩いてくる。
前世と同じ状況だ。
そして、乃百合さんは俺のそばまでやってきた。
微笑んでいる。
そして、いい匂いがしてくる。
これだけでも俺の心は沸き立っていた。
「海定くん、おはようございます」
美しい声。
ずっと、ずっと、待ち望んでいた声。
俺はこの声を聞いただけで、心が一気に沸騰していく。
しかし……。
これだけで終わらせてはいけない。
ここで終わってしまったのでは、前世のように、仲よくなれないままになってしまう。
そんなことは二度と繰り返したくない。
俺は、恥ずかしくてたまらない気持ちを懸命に抑え、
「あ、あの、夏浜さん」
と呼びかける。
乃百合さんは、
「なんでしょう?」
と応えてきた。
特に俺のことを嫌がる素振りはないようだ。
これなら続けて話をすることができるだろう。
俺は、勇気を振り絞り、
「今日の放課後。話したいことがあるんです。校舎の外れのベンチまできていただけませんでしょうか?」
と言った。
「それって、どういう意味……」
乃百合さんは困惑している。
今までほとんど接したことのない男から言われたのだから、どういう対応をしていいか、すぐにはわからないのだろう。
俺が乃百合さんの立場であっても困惑はしてしまうと思う。
前世のことを思い出してもらえれば、もう少し話はしやすいのだけど、それは仕方がない。
ここで告白まで持っていくべきだろうか?
そういう気持ちも湧いてくる。
しかし、もうホームルームまで後わずかの時間しかない。
ここは約束だけでも取りつかなければならない。
「お願いします。話は放課後します。大切な話ですので、申し訳ありませんがよろしくお願いします」
俺は頭を下げた。
ここで断られたら、どうにもならない。
告白以前の問題だ。
俺は、受けてくれることを願った。
すると、
「わたし、島森くんとは、今まで始業式にあいさつをしただけでした。そのような仲だったのに、いきなり島森くんからお願いをされたので。戸惑ってしまいました」
と乃百合さんは言った。
これは断る流れだろうか?
乃百合さんの言う通り、話がいきなりすぎたのだろう。
もう少し段階を踏むべきだったのだろうか?
そう思わざるをえない俺だった。
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