第61話 言葉が出てこない

 俺は今、乃百合さんと二人きりで校舎の外れにいる。


 やっとここまできた。


 後は、告白するのみ。


 そう思っているのだけど……。


「あ、あの……」


 俺、夏浜さんのことが好きです。


 付き合ってください!


 こういう言葉で俺の想いを伝えたい。


 そして、相思相愛になり、恋人どうしになっていきたい。


 しかし、俺の「お」という言葉すら発することができない。


 恥ずかしくて、口が動かないのだ。


 こんなときになぜ?


 今、乃百合さんに告白し、想いを伝えなければ、恋人どうしになることは難しくなる。


 今日のような告白するのに絶好のチャンスは二度と訪れることはないかもしれないのだ。


 それに、ここで躊躇していると、マイナスの思いが心の中で優勢になってくる。


 ここに乃百合さんがきたのは、俺が純粋に乃百合さんに悩みを相談したいと思っているからではないだろうか?。


 その可能性もあるのではないかと思う。


 告白しにきているとは思っていないので、俺が告白をしたら、それだけでも迷惑に思ってしまうのでは?


 そうだとしたら、嫌われてしまい、恋人にするどころではなくなってしまう。


 第一に、俺は乃百合さんのような素敵な女性につり合いがとれている存在ではない。


 努力は一生懸命してきたが、まだまだだと思う。


 それなのに、告白をしてもいいものだろうか、と思う。


 このようなマイナスの思いに心が覆われてしまったら、告白どころではない。


 ここまで来た以上、告白以外にはありえない。


 でも声がなかなかでてこない……。


 しばらく沈黙の時間が続いた。


 すると、乃百合さんは、


「言おうとしているのだけど、なかなか言えない状態なんだと思います。それだけ大切な話ということなんだろうと思っています。わたし、その話を聞く為にここにきたので、島森くんの話ができるまで、待ちたいと思います」


 乃百合さんのやさしい微笑み。


「ごめんなさい。気持ちを整えたい思っていますので、もう少し待ってください」


 俺は、何とか気持ちを整えようとする。


 しかし。一旦湧き出してきたマイナスの思いは、なかなか抑えることができない。


 今日は、もうあきらめるべきだろうか?


 いや、今日だけでなく、乃百合さんそのものをあきらめるべきだろうか?


 こういう素敵な女性には、俺よりもっとふさわしい男性がいるのでは?


 もしかして、他に好な男性がいるのでは?


 もし付き合えたとしても、前世のるやのさんや今世のすのなさんのように浮気をして、俺を捨ててしまうのでは?


 俺の心の中で、マイナスの思いがどんどん膨れ上がってくる。


 つらくて苦しい。


 しかし、俺は少しずつ思い直し始める。


 俺は乃百合さんが好きだ。


 乃百合さんと恋人どうしになりたい!


 その想いはどんどん強くなっている。


 前世ではその想いを伝えられなかった。


 ここで、告白できなければ、今以上のつらさと苦しみが襲ってくる。


 そして、来世にその苦しみを持ち越してしまうと思う。


 乃百合さんに告白するしかない。


 断られるかもしれない。


 断られるだけでなく、嫌われるかもしれない。


 でもそれを今思っても仕方がない。


 俺はようやく告白することを決断した。

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