第65話 乃百合さんと手をつなぎたい

 乃百合さんに「好き」というのは言う度に恥ずかしくなる。


 でも想いを伝えるには、この言葉が絶対に必要だ。


 乃百合さんは、俺の言葉を聞くと、顔を赤らめた。


 しばしの間、もじもじしていたが、


「わたしを受け入れてもらってありがとうございます。まだ恋とまではいうことができませんが、わたしは島森くんに強い好意を持っていますし。運命の赤い糸でつながっている気がします。そういう気持ちを大切にしたいと思っていますし、この気持ちを恋にまで育てていきたいと思っています。わたしでよろしければ、今日から島森くんとお付き合いをしていきたいと思います。よろしくお願いします」


 と言った。


 乃百合さんがお付き合いをOKしてくれている。


 恋人というところまでは到達していないのが残念だが、それはこれから仲を深めて到達していけばいい。


「ありがとうございます。これからよろしくお願いします」


 俺は頭を下げた。


 その後、ルインの交換と電話番号の交換をした。


 これか毎日やり取りができると思うと、うれしくてしょうがない。


 俺は交換が終わると、改めて乃百合さんの容姿を眺める。


 かわいくて、心がメロメロになってしまう。


 このまま一日中眺めていてもいいくらいだ。


 俺は乃百合さんとキスがしたくなってきた。


 それだけ魅力的な女性なのだ。


 しかし……。


 付き合うことは承諾してくれたが、まだ恋人になったわけではない。


 今日のやり取りからしても、乃百合さんは、俺との仲を少しずつ深めていくことを望んでいるのだと思う。


 ここでいきなりキスを求めたら、嫌われてしまう可能性が大きい。


 我慢するしかない。


 俺はなんとかキスをしたいという気持ちを抑え込む。


 では手をつなぐというのはどうだろうか?


 乃百合さんのやさしさを、手をつなぐことによって味わいたい。


 それぐらいならいいのでは、と思う。


 俺は、


「あの、お付き合いをすることになったということで、ちょっとだけでいいので、手をつなぎませんか?」


 と言った。


 このことを言うだけでも相当恥ずかしい。


「もちろん、このまま手をつなぎ続けるのは恥ずかしいと思うので、ここだけにしようと思います」


 返事はどうだろうか?


 乃百合さんは戸惑っているようだ。


 多分、乃百合さんは、異性とほとんど手をつないだことはないだろう。


 それで抵抗があって、断るかもしれない。


 付き合いがもう少し進んでからにすべきだった……。


 そう思いかけた時、


「わたし、男のとほとんど手をつないだことがなくて、胸がドキドキしてしまいました。でも、そんなことを言っていてはいけないですよね。わたしたち、お付き合いをし始めたのですもの」


 と乃百合さんは言うと、恥ずかしがりながら、俺がいつでも手を差し出してもいい状態にしてくれた。


 俺が予想していた通り、乃百合さんは異性の手をほとんど握ったことのない人だった。


 その手を握れると思うと、うれしくて涙が出そうになる。


 俺は、


「それではお願いします」


 と言った後、乃百合さんの手の自分の手を近づけていく。


 あこがれていた乃百合さんの手。


 今、その手を俺の手とつなごうとしていた。


 俺の胸はドキドキが大きくなっていく。


 乃百合さんの方も胸のドキドキが大きくなっているように思える。


 俺は手を乃百合さんの手に触れた。


 ああ、恥ずかしい。


 心がこれだけでも壊れてしまいそう。


 そう思ったが、これだけでは手を握ったことにはならない。


 俺は恥ずかしさを何とか抑え込んで、乃百合さんの手を握った。


 柔らかい。


 そして、乃百合さんのやさしい気持ちが奔流となって俺に流れ込んでくる。


 ああ、なんて素敵なんだ……。


 俺は幸せな気持ちになっていった。

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