第29話 告白したわたし (すのなサイド)

 十一月上旬のある日。


 わたしは。勇気を振り絞って、島森くんを校舎の外れに呼び出そうとしていた。


 しかし、その前にわたしは教室で、島森くんに、


「池土さん、少し話がしたいです」


 と話しかけられた。


 わたしは驚いた。


 親しい間柄ではない島森くんの方から話しかけてくることは、今までほとんどといっていいほどなかったからだ。


 何の話だろう?


 と思ったが、島森くんはそれから黙ってしまっている。


 何のつもりでわたしに話しかけたのはわからない。


 しかし、これは好都合だった。


 これは告白をするチャンスだ。


 わたしは真剣な表情になり、


「今日の放課後、校舎の外れまで来てくれます? 話をしたいことがあるので」


 と言った。


 島森くんは、しかし、黙ったまま。


 いらだったわたしは、


「来てくれますよね?」


 と少し厳しい調子で言った。


 島森くんは承諾をし、放課後を迎えた。


 わたしたちは校舎の外れで会う。


 二人きりだ。


 いくら恋人になってほしいという意味ではなく、付き合ってほしいという意味での告白ではあるけれど、告白は告白なので、緊張してくる。


 さすがのわたしでも、話し出すことは、しばらくの間はできなかった。


 島森くんの方も何も話をしてこない。


 しかし、いつまでもこうしているわけにもいかない。


 わたしは決断し、


「島森くん、わたしと付き合ってください」


 と言った。


 島森くんは驚いているようだ。


 すぐにOKの返事をしてもらえると思ったんだけど……。


 返事をする様子がない。


 わたしのような美少女が、勇気を振り絞って告白しているのに、この人は何をやっているんだろう!


 再びいらだったわたしは、


「受入れていただけますよね?」


 と島森くんに言った。


 島森くんは、


「ありがとうございます。池土さんのことが小学校六年生の頃からずっと好きでした。俺の方から告白しようと思っていたのですが、今まで告白できないままきてしまいました。申し訳ありません。これから池土さんを大切にしますので、よろしくお願いします」


 と言ってようやく返事をし、深々と頭を下げた。


 それでいいのよ。


 わたしはそう思ったのだけど、その一方で、気になる言葉もあった。


「小学校六年生の頃からわたしのことが好き……」


「そうです」


 わたしは再び驚いた。


 ということは、わたしに小学校六年生の頃から恋をしているのでは?


 少しうれしい気持ちになる。


 しかし、すぐに思い直す。


 島森くんはそうかもしれないが、わたしは島森くんに恋をしているわけではない。


 好意は持っているので、付き合う。


 しかし、もっといい男性が現れれば、その男性と付き合う。


 付き合って恋人どうしになっていく。


 振られた島森くんが、その後どうなろうと、わたしには関係ない。


「あの、一言だけ言っていいでしょうか?」


「なんでしょう?」


「わたし、島森くんに好意を持っています。だからお付き合いをしようと思いました。でも、恋というところまではまだ到達していません。お付き合いを通じて、それを育っていきたいと思います」


 こういっておくのは、わたしのやさしさだ。


 わたしに振られた時のダメージを少なくしてあげる。


 わたしって、なんて思いやりのある女性なんだろう。


「わかりました。お付き合いをこれからよろしくお願いします」


 島森くんも納得してくれたようだ。


「ではよろしくお願いします」


 わたしはそう言った。




 こうして、わたしは島森くんと付き合うことになった。


 友達に自慢したのはいうまでもない。


 ルインのアドレス交換を行い、電話番号も交換した。


 とはいっても、電話でのやり取りだとこちらも抵抗があるので、まずルインでのやり取りをすることになった。


 その夜からルインでのやり取りが始まる。


 島森くんは、最初の内、あいさつ程度しかしてこなかったが、三日も経つと、


「池土さんのことが好きです」


 という言葉を送付してくるようになった。


「好き」言われること自体は嫌ではない。


 一生懸命、わたしに愛を伝えたいという気持ちを理解はできる。


 ただ、教室ではほとんど話をしなかったし、話をすることがあっても、決して面白いということはない。


 少し話をした後は、お互い無言になってしまうことがほとんどだった。


 ルインでも、長いやり取りが行われることはない。


 島森くんの方はわたしを意識して恥ずかしがっているが、わたしの方にはそうした意識はほとんどなかった。


 島森くんに対する好意はもっていたが、強くなってはいかなかった。


 そんな状態の時、島森くんからルインが送付されてきた。


「今度の日曜日、一緒にテーマパークに行きたいと思っています」


 デートの誘いだ。


 まだそれほど好感度があったわけではないので、誘われた時は躊躇した。


 普段の時でさえ、うまく話すことができないわたしたちなのに、デートで話が続くことなど、ありえることなのだろうか?


 話がつまらなければ、デートそのものがつまらなくなってしまうだろう。


 また、どれだけ気配りをしてくれるのかも気になる。


 そういうところも期待はできそうもなかった。


 とはいっても断るわけにもいかない。


 わたしは友達に、デートでの楽しい話を聞かされる度に、うらやましいと思っていた。


 そのデートというものを、経験したいという気持ちは強かった。


 楽しいデートになるのが一番いいが、つまらなくても経験をしたかった。


 友達に、デートしたということを自慢したかった。


 わたしは心の欲求に従い、デートをすることにした。

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