第63話 あきらめてほしい

 乃百合さんの話は続く。


「島森くんは魅力的な人。頭が良くて、やさしくて思いやりももある。クラスの女生徒の間でだんだん人気が上がってきていて、わたしの周囲でも告白したいという人が出てきていたのです。その人たちと比べて、病弱なわたしは、最初からあきらめるしかないと思っていました」


「病弱?」


 俺ができれば聞くのを避けたいと思っていた言葉。


「わたしは、幼い頃から病弱でした。体が生まれつき普通の人よりもかなり弱い状態だったので、病気にかかりやすく、しかも重症化しやすかったのです。その為、大人になる前にこの世を去る可能性もある、と言われていました」


「今も体が弱いままなのですか?」


「病気にかかることが多く、よく入院をしていた中学校の頃までに比べると、今は小康状態になっているとはいえます。高校に入って以降は、一年生の夏休みと冬休みに少し入院したぐらいです。このままいけば、大人になるまで生きられると思うようになってきました。主治医の先生もそうおしゃっています。でも体が弱いことには変わりはありません。病気にかかってしまえば、それがたとえ普通の風邪だとしても、重症になってしまう可能性はあります。小学校の時、ただの風邪だと思っていたのに、その後体調が急激に悪化して、生命の危機が訪れたことが何度もありました」


 乃百合さんが、前世と同じく病弱な体を背負ってしまっている。


 せっかく生まれ変わったというのに……。


 俺は涙が出そうになる。


「今日、島森くんが告白してきたのには驚いてしまいました。友達になりたいとは思っていましたけど、恋人になってほしいと言われるとは想像もしていませんでした。そう言ってもらえるのはうれしいです。でも、わたし、島森くんの恋人になる自信はありません、なんといっても、わたしは今言ったように病弱な体を抱えています。この先、生きていけるかどうかわかりません。もともとわたしは幼い頃に、大人になるまで生きることは難しいと言われていました。今は小康状態ですけど、さっきも言った通り、病気にかかってしまえば、普通の風邪であっても重症になり、この世を去ってしまう可能性もあります。もし今島森くんの想いを受けてしまったら、わたしがこの世を去った時、島森くんを悲しませてしまうことになります。島森くんは素敵な人ですから、わたしよりもっとふさわしい女性がきっといると思います。島森くんに『好き』と言われたのはうれしいです。でも申し訳ありませんが、あきらめてもらった方がいいと思っています」


 乃百合さんは話している内に涙声になっていき、話が終わると涙を流していた。


 俺は胸がいっぱいになってくる、


 こういうつらく苦しい状態の乃百合さんだからこそ、俺は力になってあげなければいけないと思う。


 俺は前世で、瑳百合さんの力になることができなかった。


 前世の瑳百合さんの生まれ変わりである乃百合さんの力になる為に、俺は今世、ここに生まれてきたということがいえるのかもしれない。


 しかし、俺は乃百合さんに告白するまで、大回りをしてしまった。


 前世のるやのさんの時と同じく、今世でも同じタイプのすのなさんを理想の女性と思い、心を奪われて付き合ってしまったのだ。


 乃百合さんのことを、すのなさんのことが好きになる前に思い出せていたら、心の傷を負うことはなかったと思う。


 しかし、思い出せなかったのは、俺の乃百合さんに対する想いが足りなかったということだ。


 大回りをした分、俺は乃百合さんに尽くしていかなくてはいけない。


 俺はこれから、乃百合さんの為に生きていく。


 乃百合さんを支えていきたい。


 乃百合さんの為に、生命を捧げていきたい。


 そう心の中で誓った。

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