第37話 知らない女性 (すのなサイド)
六月上旬のある日。
もうすぐ梅雨に入ろうとする頃。
わたしは放課後、校舎の外れに、イケメン先輩に呼び出されていた。
ルインのやり取りが、以前ほど活発ではなくなったわたしたち。
わたしの方の送信量はそれほど変化していない。
しかし、イケメン先輩の方の送信量は減った。
あいさつと少しの言葉を送信してくるだけだ。
そして、ゴールデンウィーク後は、デートを一度もしていない。
いくら忙しいと言っていても、恋人であれば、時間を作ってでもデートを重ねていくのが普通だと思う。
デートしたい!
わたしたちは、恋人どうしなのだから!
わたしはそう思っていた。
わたしが到着すると、そこにはイケメン先輩と、知らない女性がいた。
ゴージャスな感じの女性。
「先輩、呼び出していただいてありがとうございます。会いたかったです」
わたしがそう言うと、イケメン先輩は、
「おう。よく来てくれたね」
と微笑みながら言う。
思えば、この微笑みを見るのも久しぶりだ。
この微笑みの素敵なところは、出会った頃から変わっていない。
「今日ここに来てもらった理由が聞きたいだろう?」
「それはもちろんです。最近は、ルインでのやり取りも、それほど活発ではなかったのですし、デートの回数も減りました。先輩がわたしのことを嫌いになったのではないか、ということまで思うようになってきました。先輩に限って、そんなことはないとは思っていますが、ついつい心の中にそういう思いが浮かんできます」
「そういう思いがね……」
「呼んでいただいたということは、先輩がわたしとの仲をもっと深めたいと思っているのだとわたしは思います。そうであるならば、わたしは、喜んで仲を深めていきたいと思います。先輩が望むのであれば、二人だけの世界にも入っていけます」
わたしは一気にそこまで言った。
今までは、二人だけの世界のことは、恥ずかしくて言うことはできなかった。
それを言うことができた。
もちろん、言った後は、急激に恥ずかしくなってきたけれど……。
わたしのイケメン先輩への気持ち、届いてほしい!
わたしはそう強く思った。
しかし……。
「俺が今日、きみをここに呼んだのは、ここにいる俺の同級生である素敵な女性をきみに紹介しようと思ったからだ」
「同級生の女性?」
「そうだ。ゴージャスだろう。俺の好みの女性で、わたしの恋人だ」
「恋人ですって?」
イケメン先輩の予想もしなかった言葉。
「それは、冗談ですよね?」
「冗談じゃないよ。こういうこともできるし」
イケメン先輩は、同級生の女性を抱き寄せる。
そして、
「好きだ。愛してる」
「わたしも好き。愛してる」
とお互いに言った後、唇と唇を重ね合わせた。
あまりの急速な展開に、わたしはただ呆然と眺めていることしかできなかった。
しかし、イケメン先輩が浮気をしているということを認識すると、急激に悲しい気持ちになってきた。
どうして、どうして浮気を……。
イケメン先輩は唇を離すと、
「どうだ。これで俺たちが恋人どうしであることをきみもわかってくれただろう」
と言って笑った。
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