第89話 デートに誘いたい

 まだまだ暑さが続く中、転地療養の意味もあり、高原にきている乃百合さん。


 俺たちはルインでやり取りをしていた。


 やり取りをしている内に、俺は乃百合さんをデートに誘いたくなった。


 そこで俺は、


「乃百合さん、今から電話してもいいでしょうか?」


 と送信した。


 すると乃百合さんは、


「わたしも海定くんと話がしたいと思っていたところです」


 と送信してくれた。


「ではこれから電話します」


 俺がそう送信すると、


「お願いします」


 と返信してくる。


 俺は乃百合さんに電話をかけることにした。


「こんばんは」


「こんばんは」


 あいさつをお互いにした後、俺は、


「体調の方は大丈夫でしょうか?」


 と聞く。


「おかげさまで、調子はいいです。空気が良くて、涼しいところが体にいい影響を与えているのだと思います」


「体の調子が良さそうでよかったです」


「海定くんの方はいかがでしょうか?」


「俺の方は、毎日暑いので、少々夏バテ気味です」


「食欲はありますか?」


「残念ながら、あまりありません。今までの半分ぐらいしか食べることができていません。食事を作る気力もあまりない状態です」


「それで体は持ちますか? お体の方が心配です」


「心配していただきまして、ありがとうございます。でも暑い時期は後少しだと思いますので、耐えていきたいと思っています」


 俺がそう言うと、乃百合さんは少し沈黙した。


 どうしたのだろうと思ったが、その後すぐに、


「食事を作る気力があまりないと言われていましたが、もしよろしければわたしが作りにいきましょうか? 料理は家で結構作っていますので、がっかりされることはないと思っています」


 と驚くべき提案をしてきた。


 乃百合さんが俺の食事を作りたいと言ってきている!


 乃百合さんの手料理を食べたいという願望は、今までも持っていた。


 しかし、乃百合さんとの仲がまだそこまで行っていない。


 そして、もし仲が深まっていったとしても、乃百合さんの体調を配慮しなければならない。


 近い内に実現するのは困難だと思っていた。


 それが、一気に実現しそうな展開になっている。


 喜びが湧き上がってくる。


 しかし……。


 俺の家に来てもらうというのは、結婚への第一歩だと思っている。


 恋人になったとはいうものの、お互い、まだ結婚というところまでは想定できないでいた。


 俺は乃百合さんをデートに誘うとしているが、そのデートで乃百合さんと本当の意味での恋人どうしになっていきたい。


 そして、お互いに、結婚ということを目指していきたいと思っている。


 恋人で満足するのではなく、結婚まで進んでいきたいと思っている以上、順番としてはデートしてからの方にすべきだろう。


 もちろん乃百合さんの手料理は、今すぐにでも食べたいくらいだが、今は我慢するしかない。


「提案していただいてありがとうございます。俺は乃百合さんの料理を食べたいと思っています。おいしい料理だと思いますので、今は少なくなってきている食欲も回復してくると思っています。ただその前にお願いしたいことがあります」


「なんでしょう? わたしにお願いしたいこととは?」


 俺は急速に緊張してくる。


 乃百合さんとは恋人といえるほど親しくなってきたとはいっても、このデートという言葉を発音するのは、恥ずかしくてたまらない。


 しかし、デートという言葉を言わなければならない。


 言わなければ、乃百合さんとの仲は深まっていかない。

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