第103話 もう少し一緒にいたい
乃百合さんと俺は地元の駅まで戻ってきた。
既に夜十時過ぎ。
もうお別れの時だ。
名残惜しい。
もう少し一緒にいたい。
俺たちは、今日、キスをして恋人としての段階を一つ上げた。
これからまた少しずつ恋人としての段階を上げていけばいいとは思うのだけど……。
いや、せっかく今ここに一緒にいるんだから、このまま俺の家まで一緒に行きたい。
そして、泊まってもらって、恋人としての段階を一気に上げていきたい。
二人だけの世界に入っていきたい……。
俺の心の中で、そういう気持ちが湧き上がってくる。
しかし、現実的に外泊は難しい。
今日遅くなることは、計画を立てた時点で、あらかじめ乃百合さんのご両親には伝えていた。
「時間は気にせず、楽しんでいらっしゃい」
とお母様は言ってくれていた。
デートをして仲を深めてほしい、という願いを持っているからだと思う。
この時、お父様の方も、
「時間は気にせず、楽しんでくるといい」
と言ってくれていた。
しかし、俺に要請をしていた、
「自分の娘との結婚」
「自分の会社の後継者」
という二点については、何も言わなかった。
お父様の方も、お母様と同じ願いをもっているからだと思う。
しかし、それは乃百合さんが遅くなっても家に帰ることが前提だ。
外泊ということになれば、話は全然違ってくると思う。
特にお父様の方は、この二点についての返事を求めてくるだろう。
俺の家に泊まるということは、二人だけの世界に入っていくことと同じ意味だ。
そこまで仲が深まっていくと、結婚することを決めなければならない。
そして、いくら婿養子で後継者になることが結婚する為の必要条件ではないとしても、内心は違うと思う。
結婚するからには、婿養子となり、後継者になるのが、進めるべき方向だろう。
今日のデートの結果、乃百合さんと結婚したいという気持ちはますます大きくなっている。
しかし、婿養子・後継者については、まだ心が揺れ動いている。
なんといってもまだまだ自信がない。
「後継者になることをつつしんでお受けしたいと思います」
という言葉をお父様に言うことはまだ難しい。
この状態で、乃百合さんの外泊を認めてくれるだろうか?
まず無理な気がする。
ただ俺たちは、恋人になったばかり。
あせることはない。
乃百合さんの恋人として、乃百合さんを大切にしていく。
そして、恋をお互いに育てていく。
そうすれば、婿養子・後継者にもしならなかったとしても、いずれは外泊を認めてくれるようになると思う。
その時まで待つしかない。
俺が、
「もうそろそろ帰らなければいけませんね」
と言おうとした時、乃百合さんは、
「あの、もしよろしければ、海定くんの家に泊めていただけないでしょうか?」
と恥ずかしがりながら言ってきた。
俺は最初、乃百合さんの言ったことを理解できなかった。
俺の家に泊まる?
どういう意味なのだろう?
「無理でしょうか?」
俺の心は急激に回転を始めていく。
「それは、俺と夜を一緒に過ごしたいという意味でしょうか?」
「そうです」
しかし、夜を一緒に過ごしたいといっても、いろいろある。
「アニメを一緒に観たいということでしょうか?」
俺がそう言うと、乃百合さんは少し笑いそうになる。
「そういうこともしたいという気持ちはあります。でも、今日の意味はそういうことではありません」
「では……」
俺はだんだん緊張してくる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます