第20話 対決
ここまで性格を改善しようと思ってきたことは、今までの俺の性格を百八十度転換するようなことなので、大きな苦しみを伴うだろう。
それでも俺は改善をしていかなくてはならない。
まず笑顔を作ること。
とはいっても一人ぼっちの俺。
一人で笑っていたら、かえって近づきにくくなるかもしれない。
そこで、自然な微笑みを浮かべる努力をすることにした。
今までの俺は、どうしても厳しい表情になっていたので、これだけでも違ってくるだろうと思っていた。
いずれは笑顔のあふれる人間になっていきたかった。
しかし、俺に嫌味を言ってくる人たちに対しては別の対応方法を取らなければならない。
前世では、嫌味を言われる度に俺が落ち込んでいたので、嫌味を言う人たちが調子に乗ってしまった面もあると思う。
俺は、嫌味を言われて、微笑むことはさすがにできないので、無視することにしたが、それでもなかなかそういう人は減らない。
そこで、そういう人たちには毅然とした態度をとることにした。
自分の心を強くしていくということだ。
普段は、微笑むようにするが、
「お前のようなやつは、振られて当然だ!」
「るやのさんはアイドルなんだ。お前につり合う相手じゃないんだよ!」
「お前が振られて、俺はとてもうれしいぜ!」
というように、嫌味を言ったり、嘲笑をしたりしてくる場合は、無視するだけでなく、
「俺に嫌味や嘲笑を向けることををこれからは一切しないでください」
と言い返す。
言い返すこと自体、今までの俺にはできなかったことで、難しいことだが、これをしていかなくては、改善が進まない。
俺は、こうした取り組みを進めることにした。
また心の底からの思いやりとやさしさを持つように心がけた。
自分本位になるのは仕方がないし、前世の瑳百合さんのような理想の人のところまで到達するのは難しいと思っているが、自分本位なところを少しずつでも少なくしていくことはできると思っていた。
そうすれば、これから理想の人に出会った時に、性格がつり合うところまで到達していなくても、努力していることに好意を持ってくれると思う。
そして、さらに努力を続けていき、つり合うほどの人物になっていきたいと思っている。
そこまでいけば、さらに好意は高まっていくと思う。
しかし、いきなり困っている人の相談を受けたり、困っている人の手伝いをしたりするのは、ハードルが高すぎる。
俺は今まで自分本位な人間の方だったので、こうしたことは苦手だ。
そして、助けられる方も迷惑に思ってしまうかもしれないし、そこまでは思わなくても戸惑ってしまうかもしれない。
そこで、少しでも親切なことをされたら、必ず、
「ありがとう」
という感謝の気持ちを伝えることにした。
そういうところから始め、困っている人の力になれるような人間になっていく。
瑳百合さんは読書家で、教養を豊かにする努力をこういう面からもしていたと聞いていた。
瑳百合さんのような理想の人とつり合う男になるには、様々な教養を身につけていく必要がある。
俺も様々な分野の本を読むことにした。
ともすれば小さい怒りをためていることの多かった俺。
夜寝る前に、正座をして目を閉じる時間を作ることにした。
心を穏やかなものにする為だ。
そして、俺は、毎日十分から十五分程度、クラシック音楽を聴いて、より一層心を穏やかにするようにした。
俺はアニソンを聴くのが一番好きだ。
クラシック音楽を聴くのも、アニソンほどではないものの、好きな方だ。
しかし、今まで毎日聴いていて、これからも毎日聴くアニソンとは違い、クラシック音楽を聴くのは、二週間に一回程度なので、それほど多いとはいえない状態だった。
瑳百合さんは、もともと心が穏やかな女性だったそうだが、クラシック音楽を聴くことによって、より一層穏やかな性格になっていったということだ。
俺もクラシック音楽を聴く時間を設定することによって、瑳百合さんのような穏やかな性格に少しでもなっていこうと思っていた。
いずれは、瑳百合さんのように周囲の人たちを癒せる人間になりたい。
そこまでいけば、俺は、瑳百合さんのような理想の人にふさわしい人間になれる。
俺はそう思い、こうした様々な改善に取り組み始めた。
改善を始めて最初の一週間は、態勢が整わなかった。
その為、嫌味を言い、嘲笑をしてくる人たちに対して、毅然とした態度を取ることはできないまま。
つらくて悲しい思いをした。
しかし、休日後の二週間めになると、自分でも心が穏やかになってきたと思うようになった。
少しずつ心の底からの思いやりや、やさしさを持てるようになってきた。
そして、自分の心の中に強さが生まれてきていると思うようになってきた。
そうした時に、
「お前のような弱々しい人間は、るらのさんだけではなく、他のどんなな女性とも付き合うことはできないぜ。ああ、笑っちゃうな!」
「俺も笑っちゃうぜ!」
とクラスメイトの男二人が、俺のことを嘲笑してくる。
クラスの中でもこの二人の攻撃が一番激しかった。
「反論するしてみろよ!」
「お前に反論する力なんてないだろうからな!」
得意そうな二人。
今まではここで俺は悲しい表情をし、それが彼らの戦意をますます高揚させていた。
ここは反撃するべき!
もう今までの俺ではない!
俺は生まれ変わったんだ!
俺は、笑顔を二人に向けながら、
「俺のことを心配してくれてありがとうございます。でも心配されなくても結構です。俺は俺なりに努力しますので」
と穏やかに言った。
「心配? 何を言っているんだ?」
「そうだ、そうだ。お前の心配なんかするはずはないじゃないか?」
「ますますありがたいですね。もしかして、ツンデレというやつですか?」
「何を言い出すかと思えば」
「そうだ。誰がツンデレだ!」
「さて、お二人さん。冗談はここまでにいたしましょう。あなたたちは、俺に対して嫌味や嘲笑を今まで向けてきていました。俺もそれを受けてしまって、悲しんだりしていましたが、時間の無駄であるということがわかってきました。俺は、自分のことを一生懸命磨いていくことを決意したのです。あなたたちにとっても、こんなところで無駄な時間を使うのはもったいないでしょう。ですから俺に嫌味や嘲笑を向けることををこれからは一切しないでください。そんなことより、あなたたちも自分磨きを一生懸命すべきです。お互いに、穏やかに生きていきましょう」
気力がみなぎっていく。
俺は微笑みながら、しかし、毅然として二人にそう言った。
二人は驚いたのか、しばらくの間、言葉が出てこない。
やがて。
「弱々しい人間だと思っていたのに、人が変わったように毅然として言いやがる。さっきまでは、俺たちの方が圧倒していたというのに……。悔しくてしょうがない。でもこいつの強い気力に圧倒されて。俺には太刀打ちできない……」
「なんという強い気力なんだ……。こいつに圧倒されて、言葉がでてこない。俺にも太刀打ちできない……」
と言って、二人はうなだれる。
「話が終わったのであれば、自分の席に戻ってください」
俺が穏やかに言うと、
「こいつにはかなわない」
「仕方がない」
と言って、二人はうなだれたまま自分の席へ戻っていった。
この日を境目として、俺に嫌味を言ったり、嘲笑したりする人は大幅に減った。
それ以降もそういう人も残ってはいた。
しかし、毅然とした態度を取り続けていけば、やがて全くいなくなるだろうと思っていた。
そして、少しずつではあるが、俺に話しかける人が戻り始めた。
状況は良くなってきた。
前世とは違う傾向がでてきたのだ。
その後も俺は、瑳百合さんの笑顔を思い出しては、一生懸命努力を続けた。
そして、三学期の終業式を迎える頃には、自分に自信がだんだんついてきた。
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