第49話 二人きりでのあいさつがしたい

 その翌日。


 朝方までは雨が降っていたが、今は止んでいた。


 少しずつではあるものの、陽も射してきている。


 昼頃になると、蒸し暑くなってきそうだ。


 俺は朝食をとった後、学校へ向かって歩いて行く。


 昨日、伸七郎と俺にとって、この数日間が大切になるだろうと思い、いい方向に行くことを願っていた俺。


 できれば今日、乃百合さんとあいさつが出来たらと思っている。


 それもただのあいさつではない。


 二人きりでのあいさつだ。


 あいさつ自体ができないわけではないが、乃百合さんの席の前には、いつも仲のいい友達がいるので、二人きりのあいさつということはできないでいた。


 贅沢なことを言わず、ただあいさつをするだけでもいいいのでは?


 そう思うこともあったが、それでは乃百合さんに何の印象も与えられないし、それ以前に、周囲に人々がいる中で、あいさつをすること自体、恥ずかしく思っていたので、結局始業式以来あいさつができないまま来てしまった。


 二人きりであいさつをし、その後、告白をしていく。


 これが、この数日間のどこかで行わなければならないこと。


 今日できれば、それが一番いい。


 とはいうものの、昨日の夜、そう思い出してからは、心が湧き立ち始めていた。


 夜もなかなか眠ることができなかった。


 今も少し眠い。


 一方で、


 そう急がなくてもいいのでは?


 という思いも俺の中にはあった。


 二人きりの状況を作り出すのは、難易度が高い。


 これが、二人きりでのあいさつ、そして告白へのハードルを上げている。


 前世で、瑳百合さんにこの時期あいさつをされたのは、俺が意図したことではなかった。


 同じシチュエーションを作ろうとしても、同じ結果になるかどうかはわからない。

 あせることはない。


 あせって乃百合さんにあいさつをし、告白をしたとしても、かえって乃百合さんが嫌がる可能性がある。


 それ以前に、今世の乃百合さんは、俺に好意を持っていない可能性さえあるのだ。


 夏休み前までに告白まで行ければいい。


 自然な成り行きにまかせた方がいい。


 学校へ向かって歩いている内に、そういう気持ちがだんだん強くなってくる。


 しかし、陽射しを浴びて歩いている内に、俺は思い直し始めた。


 高校生活は短い。


 一日一日を大切に生きなければならない。


 乃百合さんとの仲を先送りすればするほど、貴重な時間を失っていくことになる。


 そして、俺は悶々とした日々を過ごさなければならなくなる。


 もっと前向きに生きなければならないと思う。


 俺は乃百合さんが好きだ。


 乃百合さんともっと仲良くなっていきたい。


 乃百合さんと俺の間に、運命の赤い糸がつながっているのであれば、きっとこの数日間に二人きりになる時が訪れるはず。


 その時に、俺の想いを伝えていけばいい。


 もし、その想いが通じなかったとしたら、運命として受け入れるしかない。


 しかし、前世では好意を待ってもらっているのだから、少なくとも嫌われることはないはず。


 乃百合さんへの想いをもっと熱くして、告白へ向かっていこう!


 改めて俺は強く思い始めていた。


 すると、


「おう、海定、おはよう」


 と言って、俺の肩を伸七郎が叩いた。

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