第69話 すのなさんがやってきた
その日の放課後。
俺は乃百合さんと一緒に帰ろうとしていた。
俺は帰宅部だが、乃百合さんは美術部に所属している。
美術部員の中でも一番うまく、入選したことも何度かある。
今日は部活がない日ということで、俺は、昨日の夜、ルインで、
「明日、一緒に下校しませんか?」
とお願いをしていた。
下校の誘い自体、俺にとっては敷居が高く、
「断られたらどうしよう」
と、この言葉を送付するまで、しばらくの間悩んでいた。
送付した後、しばらくの間返事がこなかったので、
これは断られてしまうのだろうか?
と思っていた。
「よろしくお願いします」
と返事がきた時は、その場で踊り出したくなるほどうれしかった。
今、隣に乃百合さんがいる。
かわいい。
いい匂い。
好きな人とこうして行動ができる。
それだけでも心は浮き立つ。
せっかくなので、校舎の外れのベンチに行き、そこで少しおしゃべりをしてから帰ろうと思っていた。
しかし……。
「島森くん」
二人で歩いていると、俺に呼びかけてくる人がいる。
俺が振り向くと、そこには、俺を振ったすのなさんがいた。
何の用だろうか?
俺と付き合っていたというのに、俺の目の前で、イケメン先輩とキスをし、大きな打撃を与えた人。
ようやく忘れかけてきたというのに……。
イケメン先輩の恋人として、楽しく過ごしているはずのすのなさんが、なぜ俺に声をかけてこなければならないのだろう?
理解ができない。
わざわざ自分の幸せぶりを自慢しにきたのだろうか?
もしそうだったとしても、俺は乃百合さんと付き合っている。
こうして隣にいてくれる。
自慢されても別に何とも思わないだろう。
そう思っていると、
「島森くん、わたしと付き合って!」
とすのなさんは言った。
俺と付き合ってほしいと言っているのだろうか?
信じがたい言葉だ。
「わたし、イケメン先輩に振られてしまったの。わたしに飽きて、新しい恋人ができたと言われて。別れたというより捨てられてしまったの。わたしって、かわいそうでしょう」
なんと、あれだけ仲睦まじい様子を俺に見せつけていたすのなさんとイケメン先輩が、別れてしまっていたのだ。
俺は理解に苦しむ。
「それで、ずっと悲しんできたの。でも悲しんでいる内に、島森くんのことを思い出したの。わたしはそれまで、イケメン先輩に夢中になっていて、島森くんのことは、ほとんど思い出すこともなかった。でも思い出し始めると違った。わたしは、結構島森くんと楽しく過ごしていた。特にデートをした時は、今思うと楽しい一日だった。どうして、今まで思い出さないでいたんだろうと思ったの」
すのなさんは一度言葉を切った。
そして、
「それに、島森くん、魅力いっぱいの人になってきた。学年のトップになったし、なんといっても、かっこよくなってきたのが大きいと思う。そういうところもあって、もう一度付き合いたいと思ったの」
とすのなさんは微笑みながら言う。
言いたいことが理解できなくはない。
イケメン先輩に振られて、初めて俺の良さというものがわかってきたのだと思う。
しかし、俺を振ったことについては、何とも思っていないのだろうか?
二人は、俺の前でキスまでしている。
しかも、仲睦まじそうに。
それだけではなく、二人だけの世界に入ったことがあるという話だ。
俺はつらい思いをしたというのに……。
「わたしのような美少女が、もう一度付き合いたいと言っているのだから、OKしてくれるわよね?」
すのなさんは、俺にそう言って迫ってくる。
しかし、付き合う気は全くない。
俺には、乃百合さんというとても大切な人がいるのだ!
俺は強く思うのだった。
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