第10話「テンプレートはいつの世も」
体育の女教師が担任らしい。若く健康的なその姿は、一部の男子学生から人気を集めているという。
まあ、そんなことはさておき、ホームルーム終了の後に始業式を体育館ですませると、戻ってきたタイミングでもう一度、藤村さんに話しかけるチャンスが訪れた。
今度こそ、と息まいて何の話題を振ろうかと考えていたところに、またもや担任教師が登場し、
「ホームルームを始めるぞー」
今朝と寸分たがわぬ言葉で俺と藤村さんの時間を奪っていきやがった。許さないぞ、この野郎。……野郎じゃないか。
まあ、しかたない。
しばらくはこの席順なのだろうし、チャンスはいくらでも訪れるだろう。などと、高をくくっていた俺の気持ちをあざ笑うかのように、
「とりあえず席替えでもするか」
担任の口から飛び出た衝撃発言。だが、それで折れる俺ではない。少しでも藤村さんの近くを引いてやるぜっ!
息まきつつくじを引いた結果、先ほどまで藤村さんのいた窓際一番後ろの席をゲットした。席のポジションとしては悪くないと思う。
ただ……。
丁度対角となる廊下側一番前の席を見ると、藤村さんの綺麗な黒髪が見えた。
一番遠い場所とか、どういうことよ。
とまあ、散々な初日となったわけだが、それでも同じクラスになったアドバンテージを最大限活用しようと、放課後が来たと同時に藤村さんに話かけようとしたのだが……。
「おい、幸城」
「え?」
席を立った俺の前に、三人の男子が立ちふさがってくる。
なんだってんだよ、まったく。
「忙しいので、用があるなら後にしてくれないかな?」
「幸城、てめぇふざけんなよ!」
ピアスに金髪のバカ一号が怒鳴りつけてきた。新年度から何を怒っていらっしゃるのか。
「えっと、なにか俺が気に障るようなことした?」
「本当に調子乗ってるよな」
今度は隣のオールバックが睨んできた。こいつら、よほど暇なんだろうな。
「幸城、こっち来いよ」
茶髪のチャラ男がそれに続く。こいつら去年からいつも絡んでくるんだが、飽きないのかね。……まあ、抵抗するのも面倒くさいので従ってやることにした。
そのまま、三人に連れられて数室離れた空き教室に俺は放り込まれた。手荒い歓迎だね、まったく。
そのまま様子を見ていると、茶髪が入り口のドアを閉めたかと思ったら、金髪がいきなり後ろから蹴ってきた。
「うおっ」
びっくりして、つんのめってしまったじゃないか。
「急に蹴んないでよ、もう」
「幸城……チビで弱いくせに、そうやっていつも俺たちをバカにしやがって……」
「そう怒らないでよ、チャラ男くん」
「誰がチャラ男だ! それがバカにしてるって言うんだよ!」
どうやら、俺の発言が火に油を注いでしまったらしく、チャラ男は俺のみぞおちへ拳を打ち込んできた。
おかげで、後方に倒れてお尻を打ってしまった。まったく、さすがに痛いじゃないか。
尻もちをついている俺を取り囲んだ三人は、いつものようにリンチをするつもりらしい。
制服が汚れるから、できればやめてほしい。
「やめてよ、痛いから。なにが気に食わなかったの?」
「その態度だよっ!」
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