第42話「自分の選択」
朱音に促されるまま、この間と同じようにお邪魔すると、
「幸城渚くん、いらっしゃい。朱音もおかえり」
「お父さん、ただいま」
「先生、お邪魔します」
「お邪魔だなんて、呼んだのは私なんだ。さっそくだけど、いいかな?」
「はい」
急かすような涼太郎さんの様子から、急ぎの用であることはなんとなく伝わってきた。
涼太郎さんが足早に階段を上がっていくので、俺も急いでついていく。横目でチラリと見えた寂しそうな朱音の表情が気になったが、足を止めるわけにもいかなかった。前回と同じように書斎に入ると、カーテンをすべて閉めた涼太郎さんに促されるまま、俺はソファーへと座った。
「で、なんですか? 用事って」
向かいの椅子に腰を下ろした涼太郎さんは、言葉を探すように視線を泳がせると、意を決したように俺の目をまっすぐ見据え、
「変身、したのだろう?」
「っ!」
藤村さんは、軍には報告していないと言っていたのに……なんで。
「幸城渚くん。その顔は、肯定ということでいいんだよね?」
「……どこから情報が?」
「昨日、町中で発見されたアグレッサーを軍関係者の娘さんが討伐した話は……知っているんだね?」
「……はい」
藤村さんの話だろう。そういうことになっているんじゃないのか?
「幸城渚くんがどこまで状況を把握しているのかは、わからないんだけどね。検死の結果、娘さんの証言通り頭部への弾丸が致命傷になって命を落としたのは間違いないとわかった。けど、アグレッサーの遺体は相当に損傷が激しくてね。まるで、超人的な身体能力を持った人間の物理的な力によって手の骨を砕かれ、胸部に強い衝撃、圧迫が加えられたようにしか見えないんだよ。そんなことができる人間は、地球上でおそらく一人しかいない」
「それは……」
そこまで追及されるとは、考えが及ばなかった。いや、後のことを考えて対処していられるような状況でもなかったんだけど……。
「幸城渚くん。なぜ、こんなことを? いや、そんなことは聞くまでもないだろうね。目の前の人間を守ろうとしたんだろう?」
「……はい」
「……運の良いことに遺体の損傷が激しくて、魔法少女がやったのかどうかの決定的な証拠に欠けているのが現状なんだ。けど、魔法少女が療養中でないと知っている軍の上層部はすでに怪しんでいると思う」
「そう、ですか」
「……今が、最後のチャンスなんだ。逃げて、くれないかい?」
「……」
逃げる。
その選択肢があったのは事実だ。
でも、もう今は、その答えを選ぶことはできない。
藤村さんをおいて、ここを離れることはできないから。
止めたって戦うというだろうから、一緒に逃げようなんて言っても聞きはしないだろう。放っておいたら一人でアグレッサーに突っ込んでいきそうだ。だから、引っ張ってでも一緒に逃げてやる。
藤村さんは、まだ未熟だ。けど、おそらく才はある。本気で軍人になりたいというのなら、きっとそれも選択肢の一つだ。戦うという選択を止めはしない。
でも、勇気と無謀は違うんだ。だから意地でも藤村さんを戦場から遠ざけなければならない。
だから……今はまだ、
「先生。晄もいざとなれば、最低限は戦えます。朱音と二人で逃げさせてください」
「っ!」
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