第43話「その先にある代償」
「先生。晄もいざとなれば、最低限は戦えます。朱音と二人で逃げさせてください」
「っ!」
ここまでハッキリと俺が断るとは考えていなかったらしく、涼太郎さんは目を見開くと、しばし沈黙した後、何かに納得したように頷き、口を開いた。
「幸城渚くん。君は残るというのかい?」
「そうなる可能性が、高いと思っています」
「場合によっては戦うと……そう言うんだね?」
「……はい」
命に差は無い。それは、限りなく客観視した場合はそうなのかもしれないが、主観がある以上どうしたって優劣はつく。
少なくとも俺は、藤村さんをむざむざ見殺しにはできない。
「幸城渚くん。これは、十条晄さんに口止めされていたんだけどね……」
重そうに腰を上げた涼太郎さんはポケットから鍵を出すと、自分のデスクの鍵付き引き出しを開け、中から二枚の紙を取り出し、俺に渡してきた。
「幸城渚くんがそれを見て、どう思うのか……まずは意見を聞きたいと思ってね」
渡されたのはCTの写真だった。
この、映っている体は……。
「っ……まさか、先生。これは……晄の?」
「そうだね」
だとしたら、あまりにもおかしいだろ。だって……。
「……アグレッサーの体とは思えない」
いや、左胸部にブルート蓄積用器官があるし、そこから血管のように広がっているのはブルートを全身に巡らせる管だ。これは人間には勿論存在しない。
だが、他はどうだ。
アグレッサーの肉体は人間のものとは比較にならないほど、筋肉は強靭で神経は発達している。そのはずなのに、CTの画像に映っているそれは、あまりにも人間のものに近くなっている。
「これ、どういうことですか」
「……仮説はあるんだ。けど、その前にこれも見てほしい」
そう言って次いで渡されたのはレントゲン写真だった。
映っているのは、手と足で……。
「っ!」
人間でいうところの親指にあたる部分に、本来ならないはずの骨が伸びてこようとしてるのがわかる。足の指もそうだ。本来なら六本あるはずの指の骨の内、一つが明らかに短くなっている。
「これ……どういうことですか?」
「ブルートは肉体にも影響を及ぼす代物なのかもしれない」
「……え?」
「幸城渚くんは、ブルートのことをどのように解釈しているかな?」
「……ゲームのMPみたいな感じかと」
要は、力を使うために必要なもの。そういう認識だった。
「そうだね、間違いではないよ。でも、それだけではないかもしれないんだ」
「どういうことですか?」
「仮説だよ。けど、もしこの仮説が正しければアグレッサーとはブルートなしでは生き残れない環境の惑星に誕生した人間なのかもしれない」
「……どういう、ことですか?」
「人間は地球で生き残るために、火という力を手に入れ、それは今や科学力へと昇華されている。それと同じようにアグレッサーも進化の過程で何かを手に入れるに至った」
「それが……ブルートって、ことですか?」
「おそらく、だけどね。そして、そのブルートを肉体に取り込んで使っていくうちにブルートを蓄え、ブルートを使うことが可能になった人種。それがアグレッサーなのかもしれない」
正直に言えば、涼太郎さんの言っていることの意味は半分以上わからなかった。
だから、なんだっていう話なのだろう。というのが、正直な感想だったのだが、おそらく晄の体に何か問題が起こると、そういう話なのだと理解した。
「その仮説が事実だとして……晄の体には、どんな問題が発生してるんですか?」
晄の生活に支障があるなら、すぐに対策を考えなければ……。
「幸城渚くん。問題は君の体のほうだよ」
「……え?」
「君の変身は、ブルートを使って体をすべて作り変えているのだと、前に十条晄さんが言っていたんだ」
「……それは」
なんとなく聞いた覚えがある。でも、それがどうしたって……。
「幸城渚くん。君が変身を続けたら、君は君でいられなくなる可能性があるんだよ」
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