第61話「確かな不安」
「幸城渚くん。そう、かしこまらないでほしいな。まあ、とりあえず朱音たちも待っているだろうから、早く行ってあげると良いよ」
「はい。失礼します」
俺は椅子から立ち上がると、ドアに手をかけて出ようとした。
そんな俺の足を止めるように。
「そうだ、幸城渚くん」
「はい。何ですか?」
振り返ると、笑顔の涼太郎さんがそこにいた。
「私は、君のことを信じているからね?」
「え? あ、はい」
目が笑っていない気がしたのは、気のせいだろうか。そんな疑問を残しつつ、俺は診察室を後にした。
診察室を出ると。
「あ、渚くん」
「お兄さん!」
朱音と晄が、二人仲良く診察室横の長椅子に座って待っていた。
「二人とも、ずっと待ってたの?」
「お兄さんの心配してたのです」
「そうなの?」
尋ねた俺の問いに、朱音も首を縦に振って答えた。そして……
「渚くん。……教えて、くれるんだよね?」
不安そうな表情の朱音に、俺は笑顔で答える。
「うん、勿論」
「お兄さんも朱音さんも話は後にしましょうよ! 私、病院来るときは日帰りなので、お泊りが楽しみです!」
俺と朱音の真剣な雰囲気を、旅行気分の奴がぶち壊していきやがったぞ。
「晄はなんと言うか、いつも通りで助かるよ」
「渚くん。とりあえず行こう? 私たちも場所教えてもらっただけだから、とりあえず確認しときたいかな」
「うん、そうだね」
「お兄さん、朱音さん! 早く行きましょうよ!」
晄の先導により、俺たちは廊下を少し進んだ先にあるエレベーターに乗り込んだ。
晄が押したボタンを見るに、どうやら最上階である八階らしい。
扉が閉まり、エレベーターが動き出したところで俺はふと、伝えるべきことを言ってなかったと思いだした。
「朱音、晄。予定通り、検査結果は明日出るらしいよ」
俺の言葉に、しばらくの沈黙が流れる。エレベーターの動く音と浮き上がる感覚に少しの不快感を覚えていると。
「渚くん……。同席、させてくれるんだよね?」
「……うん」
ここまで来たのに、なんでそこまで繰り返し聞いてくるのだろうか。そう、不思議に思っていると、朱音と晄が二人そろって、困ったような顔を見せた。
「……渚くんは素直なんだよね。顔にかいてある」
「お兄さんは嘘をつくのは下手くそなのです」
「え?」
「渚くん。結果出てるんじゃないの?」
「……」
そうだよな。この期に及んで隠し続ける理由もないし、意味もない。
細かくわかってからのほうが、下手な不安を感じさせなくていいかとも思ったけど、そうもいかなそうだ。それに、どうせ明日には一緒に背負ってもらう重荷なのだから、今から心構えしておくことは、二人にとっても必要かもしれない。
「レントゲンだけは見たんだ。完全に、人間のそれじゃなかったよ。たぶん、力を使い続ければ、もっとそうなっていくんだと思う。細かいことは、明日わかるらしいよ」
自分で言葉にしたとたん、それが現実として目の前にあると実感できる。
だからか、今になって怖く感じた。
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