第60話「直視した現実と覚悟」
「幸城渚くん。どうするんだい?」
「……と言うと?」
「わかっているんだろう? いや、もうほとんど答えは出たようなものなんだ。明日君が目にするものは、明確で確実な進行度合いと、力を使った場合の推定浸食進行度合。……もう、良いんじゃないかい?」
「……いえ」
そう言うわけにもいかない。そりゃあ俺だって、自分の体がどんどん変容していくなんて、平気でいられるわけじゃない。けど、なんだろうな。この、逆にふに落ちたような、半ば安心に近いような感覚は。
ああ、そうか。
わかっていたんだ。自分の体は自分が一番よくわかっているなんて、そんなことを言うわけじゃない。ただ単に、一年間もの間、俺は自分であって自分でない体を動かしていた。
戦時下において、俺が俺自身でいられた期間がどれほどあっただろうか。
……わかっていた。
吐き気がするほどに見たくないからと言って、目をそらし続けてきた現実との答え合わせをしただけだ。
数日前、力を使うことも視野に入れたあの日から、ある程度は受け入れる覚悟していた。
だからこそ、この事実をちゃんと認識したかった。
俺が本当に、本当の意味で、今の自分というものを受け入れるために。
自分が特別でないことなんて、わかっていたのに、自分が魔法少女になり損ねたという事実を認識したくなくて、幻想を捨てきれていなかった。
現実を直視するのを避けて、ずっと実力不足を嘆いていただけなんだ。
けど、同じように蹲っている
「先生。俺はもう、逃げたくないんです」
「幸城渚くん……」
「……それと、一つお願いが」
「なんだい?」
「……明日は、朱音さんと晄も同席させてください」
「……。本当に、いいのかい?」
「はい。本当の意味で俺を見てくれている人に、嘘はつけませんから。それが俺のわがままで、独りよがりな思いだったのだとしても……」
俺の言葉に涼太郎さんはあきれたように笑みをこぼし、
「そういう人だったね、君は」
そう言ってディスプレイを見つめる涼太郎さんの横顔は、どこか安心しているようにも見えた。
「先生、それでこの後は?」
「ああ、そうだったね。戦争から一年以上たったとはいえ、入院患者も多いのが現状でね。個室の来賓室を仮眠用室にしているんだ。そこを使ってほしい。手狭で不便をかけるとは思うけど、我慢してくれると助かるよ」
「大丈夫ですよ。むしろ急なことだったのに、対応していただいてありがとうございます」
「そう言ってもらえると、私としても助かるよ。……おそらくすでに朱音たちには話がいっているだろうから、聞いてみると良いんじゃないかな?」
「はい。何から何までありがとうございます」
「いいや、私はお礼を言われる立場になんていない。私が協力することが、当然の恩返しなんだからね」
涼太郎さんは、いつもそう言ってくれる。でも……。
「……ありがとうございます」
どうしても、言葉にせずにはいられない。
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