第80話「自分ができること」

「晄ちゃん……」


 朱音の心配そうな声に笑顔を見せた晄は、まっすぐに藤村さんの目を見て口を開いた。


「初めまして、藤村祥子さん? で、良いんですよね?」

「っ……随分、流暢な日本語ね。それで何人の人間を騙してきたのかしら?」


 藤村さんの敵意むき出しな言葉にも一切動じることなく、晄は言葉をつづけた。


「あなたのお母さんには数回しか会ったことはありませんですが、本当に強く凛々しく優しい方でした」

「お母……さん?」

「はい。冨士村義美さんです」

「っ! そんな……嘘よ!」


 あまりの衝撃に、藤村さんはよろりと数歩後ずさってしまう。


「嘘ではないですよ」

「……人間に擬態して、お母さまを騙してたってことね!」

「いいえ、なのです。私はそんなつもりはありませんですよ?」

「黙りなさい!」


 銃を握る藤村さんの手に力が入っていることが遠目でもわかった。藤村さんの人差し指が引き金にかけられる。それでも晄は一切動じることなく、一歩前へと出て藤村さんの構える銃に自分の顔を近づけ、そして……。


「アグレッサーが地球人の敵で、それをすべて殺すのがあなたの信念だというのなら! ……私は、かまわないのです」


 晄がこんなに強く、声を上げているのをはじめてみた。そこにある晄の矜持には、絶対に譲れない想いあるのだと、そう感じさせられる。


「藤村祥子さん。一つ聞いていいですか? もしかしたらですけど、自分が魔法少女でないことが悔しいんじゃないですか?」

「っ! ……そんなわけ」

「自分に力があったらって思っているんじゃないんですか?」

「うるさい! アグレッサーに何がわかるのよ!」


 藤村さんは眼光を鋭く光らせ、銃を構えなおした。それでも、晄は一歩も引こうとしない。


「わかりますです! 確かに私が、アグレッサーであることは紛れもない事実なのです。でも、地球人でないことを寂しく思うときはありますですよ?」

「どういう……ことよ」

「お兄さんや朱音さんと過ごした日々は私にとってかけがえのないものです! だから守りたいって、そう思うです! そんなときに……もし、自分が地球人だったらって……そう考えることは何度もあるのです。でも、それでも私がアグレッサーだったからこそ、できたことはいっぱいあるのです! だから、自分ができることをするしかないって、そう思うのです!」

「っ! わ、私は……」


 晄の言葉に藤村さんは何を思ったのだろうか。藤村さんの気持ちや戦う意味。そうしたものを、きっと晄は聞きたかったのだろう。俺にとって藤村祥子と言う人間が大切だと知っているからこそ、晄はその言葉を藤村さんに言ったのだろう。なんとなく、そんな気がした。

 晄に向けられていた銃口が次第に下がっていく。


「あたしは違う……あたしだって……」


 藤村さんは悔しそうに下唇を噛みしめる。今なら俺の話を聞いてくれるかもしれない。


「っ!」


 うかつだった。完全に二人の会話に気をとられていたっ!


「囲まれてるっ!」


 俺がそう叫んだ直後、ビームが建物の陰から三人のいる場所へと放たれた。

 跳躍し、どうにか俺はそのビームの射線上に入ると、拳をぶつけ相殺する。が、


「っ!」


 その瞬間に気付いた。ほぼ同時に真逆からもビームが発射されていたのだ。


 まにあわないっ! 


 俺の手が届かないその場所へ、またも晄は藤村さんの前へと立ち、手のひらにブルートを集中させビームを弾いたが、先ほどよりも大きく飛ばされてしまう。飛ばされた先に丁度俺がいたのが不幸中の幸いと言うべきか、受け止めるも晄はかなり衰弱しきっていた。


「晄! 大丈夫!? 無理しないで!」

「お兄さん。ごめんなさい、心配かけて」


 俺の腕の中から離れようとするも、足に力が入らなかったのか、晄は地面に崩れ落ちてしまう。


「晄っ!」

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