第81話「俺は今、魔法少女になる。」

「大丈夫、です」


 弱弱しくもそう答えた晄は、ポケットの中に入れてあった半透明のケースを取り出すと、中に入っていた錠剤を一気に数十個飲み込んだ。


「晄……」


 ブルート補給薬、だろう。間違いなく、過剰摂取だ。一気にブルートを取り入れると、体に相当な負荷がかかるはずだ。それでも晄は、懸命に立ち上がる。

 感嘆と言ってもいいかもしれない。

 藤村さんは、立ち上がる晄の姿に、羨望ともいえる視線を確かに向けていた。


「あなた……」


 その一言はきっと、自然とこぼれたのだろう。それに応えるように、晄は藤村さんの目をまっすぐ見据え。


「私は守りたいものを今度こそ守るです!」


 自分に喝を入れるかのようにそう叫んだ晄は、見たこともないほどに鋭い目つきで、体にブルートをまとわせた。

 無茶だ。そんな荒業が長く持つわけがない。

 ……バカ野郎。いや、バカ野郎は俺自身じゃないか。

 アグレッサーが家や茂みの陰から姿を現す。その数、十体。完全に包囲されていた。


エナホタツツァヅオトンオホデカチエチイカ裏切り者がいたとは聞いていたけどホタチアゴノミリガル本当だったとはね

ウライェチソロコふざけやがって、ヤヂロムツイウオデツトォマモワンイジュウヤィキ地球人を守ってどういうつもりだよ! テツタァガイェカズフ殺してやる!」


 殺気をたぎらせながら現れたアグレッサー達だったが、すぐには攻撃をしてこない。

 不思議に思っていると、そのうちの一人が前へ出てきた。


「コウショウ、ヒツヨウ、ヒト、オマエ」


 そう言って出てきたのは、見るからに大柄な大男と言った体格のアグレッサーだった。

 交渉? どういうことだ?


「ムスメ、ヒツヨウ、ヨコセ、ミノガス」


 そう言ったアグレッサーの視線の先にいたのは藤村さんだった。

 藤村さんは大柄なアグレッサーに銃を向けると、


「冗談じゃないわ。あなたたちの都合の良いようになんてならないわよ!」

アノモノミリガルンオ交渉決裂かリトムン仕方ないアワマケチソロカヒアギアマセミホお姫様以外は殺して構わないイアナもちろんタキサクテルテクオヤィスオク裏切者もな


 アグレッサー達は、ブルートを手の先に練り込み力を溜めこみ始めた。

 勝手に交渉を持ち掛けてきておいて、用がなくなったら殺すってのかよ。……ふざけるな。お前たちの都合で多くの人間の想いを踏みにじったんじゃないか。

 いや、それは俺だって同じなのかもしれない。

 それでも……それでも俺は、自分のしてきたことを背負って、前に進んでいくと決めたんだ。

 俺は首に下げたペンダントを外すと、藤村さんの元に駆け寄り、半ば無理やりペンダントを渡す。


「返すのが遅くなってごめん。これは、藤村さんのものだから」

「え?」


 すべてのアグレッサーが俺たちに手を向けた。一斉射されたら晄一人じゃ持たない。

 迷っている場合じゃない。いや……もう、迷わない。

 俺は一歩前に出る。携帯型の四角く薄っぺらい白の携帯用ファンデーションケースコンパクトを持って。


「藤村さん。見てて……これが俺の全力全開、だからさ」


 手が震える。もう、後には引けないから。もし、また守れなかったら……。そう思うと怖い。それでも俺は……わざとニヤリと笑って見せる。大丈夫、そう自分に言い聞かせるように。


アユィシエスツィ!一斉射!


 アグレッサー達が一斉にビームを放ってきた。

 それに合わせ、俺は叫ぶ。決意を言葉に乗せて……。



 ――ヴェレ・アオローラっ!



 俺の声に反応しコンパクトはひかり、その中からあふれるオーロラが全方位のビームを跳ね飛ばし、俺を包み込む。七色に輝く空間に包まれた俺は、魔法少女へとその姿を変えていく。水色を基調としたキャミソールワンピースのようなファンシーな衣装が体を包んだ。

 とても戦闘服とは思えないその姿に変わった俺は、七色に輝く空間がはじけ飛ぶと、ゆっくり地面に着地した。


「あなた……まさか、そんな」


 驚愕し言葉をこぼす藤村さんに俺をアピールするかの如く、右腕を振り上げポーズをとる。


アヘアまさか……モアカサモお前は


 戸惑うアグレッサー達にわざとらしく得意げな笑顔を見せ、そして睨みつけると俺は高らかに叫んだ。


「愛と正義のファンシー服リリカル魔法少女、マジカルプリティー! 軍に代わってお仕置きよ! とっとと母星に帰りなさい!」


 奇跡を起こし、人々を幸せにする。

 俺は今、魔法少女になる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る