第45話「ブルート」
帰宅した俺は夕飯を済ませると、一人自室のベッドに仰向けで寝転がり、天井のシミを探しつつ足を組んだ。
「さてと……どうしたもんかな」
涼太郎さんの言う仮説は正しいのか。いや、晄の体がああなっている以上、可能性はかなり高いのだろう。
そして、地球人も同じようにブルートに体が影響されるのか。問題はそこにあるわけで、俺の体を検査すれば、おのずと答えは出てくるはずだ。
数時間前。俺は、確認の意味も込めて、涼太郎さんに質問した。
「先生。まず、確認させてください。晄の体が地球人のようになってきているのは、何が原因ですか?」
「おそらく、ブルートの力による擬態を続けているからだと思うよ。ブルートによって無理やり変化させた肉体でいる時間が長いせいで、元の形に戻りにくくなってしまっている。というのが、私のたてた仮説だね」
「アグレッサーはブルートを扱えるように進化した人間だと、さっき言ってましたよね? ブルートの影響で体が変化したまま戻らないなんて、それ、ブルートを扱えているとは言えないんじゃないですか?」
「いいや、元には戻るよ」
「……え?」
「ブルートを逆の形で作用させてあげれば、元に戻すことはできるんだ」
だったら、何が問題だって言うんだ。元に戻せるなら問題ないんじゃないのか?
「幸城渚くん。問題はそこじゃないんだよ。問題はブルートの使用が、使用者の肉体にそこまで影響を与えてしまうということなんだ。君も身に覚えがあるだろう?」
「え?」
「初めて変身した後。騒乱が収まったあとのことだよ」
「……」
覚えている。ただ、我武者羅に戦ったあの日。目についたすべてのアグレッサーに襲い掛かるようにして、どうにか戦い抜いた始まりの日。
襲い来る敵がいないことを確認すると共に、お姉ちゃんと晄を抱えた俺は、涼太郎さんのいる病院へと向かった。
そして、涼太郎さんにお姉ちゃんを預けると同時、俺は意識を失った。
涼太郎さんの目の前で変身が解け、倒れた俺はそのまま高熱を出し、三日三晩眠り続けたのだという話だった。
目覚めた後、俺は涼太郎さんの勧めで精密検査を受けた。その時に見た自分のレントゲンは目を疑うもので……。
基本的な身体構造は地球人のものではあった。けど、全身にアグレッサーのものに似た神経組織が張り巡らされていたのだ。当然、アグレッサーではないためブルート蓄積用器官はなかったが、それはもう、まともな地球人の体ではなかった。
「十条晄さんの話によると、君が変身時に使用しているコンパクトは、別に変身アイテムではないらしいんだよ。あの
「……力を形にする機能と補助の機能ですか?」
「そうだね。その二つが機能した結果、君の選んだ変身と言う形にするためには体を造り変えるしかなかったんだろう」
なるほど、なんとなくわかった。
「俺は戦前と戦後で、身体能力に相当な違いがあります。変身しなくても、戦前とはまるで別物です。……そういうこと、なんですよね?」
「……おそらく、だけどね」
晄と同じく俺も、変身状態で長い時間生活をしていた。軍と共に行動する機会も多かったため、身バレしないよう元の姿に戻ることがほとんどなかったのだ。自分の顔すらも忘れてしまいそうになるほどに。
それだけ長時間ブルートの影響を受け続けていた俺の肉体は、きっと初変身の時から比べても大きく変化しているに違いない。晄の検査結果から考えれば十分あり得る話だろう。
「先生。俺の体はすでに、アグレッサーに相当近くなってるんじゃないですか?」
「それは……。断言は、できないよ」
「そう、ですか。……あ、でも、晄も元に戻れるって話だったし、俺の体も元に戻す方法の見当がついてるんですよね?」
正直に言えば、俺だってわかっていたんだと思う。それでも、やっぱりどこかで期待をして、そう聞いてしまったのだ。
そんな俺に、苦虫を噛み潰すような表情で、涼太郎さんは首を横に振った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます