第40話「俺の目に似ていて」
藤村さんを見ていると、昔の俺を見ているようなのだ。
晄に力をもらわなければ、借り物の力がなければ戦うことさえできなくて、周りから期待とともに抱かれる恐怖と疎外感を覚え、自分が何であるのかがわからなくなりながらも、母さんと父さんは死に、お姉ちゃんも意識を取り戻すことはなく、ただひたすらに目の前の壁を越えることに没頭しなければ頭の中が絶望で埋め尽くされそうで、怖さを自覚しないために強さを求めた。
戦うことが守ることで、自分を肯定できる唯一の手段であると思った。
だから、誰になんて言われようと、止まるわけには行かなかった。
そんな毎日の中でふと、鏡を見ると「こいつだれだよ?」と、声が漏れそうになった。鏡に映るのは栗色ボブカットに碧眼の少女。俺の理想とする魔法少女の姿がそこにあった。
だから、それが自分として動いていることに吐き気がした。
魔法少女? 笑わせるな。そんな大層なものじゃない。
自分を守るために異星人を大量虐殺する生物兵器だ。
俺を包む、魔法少女と言う戒めの衣。正義と希望と夢の体現者。そうであり続けろと言う、最後の精神的砦。でも、鏡に映る少女の瞳は死んでいた。虚ろで、この世の全てを恨むかのような腐った瞳をした少女が、アニメチックでファンシーな服を身にまとっている。その滑稽な姿に乾いた笑みがこぼれるんだ。そして……思う。俺は、なんで生きてんだよ? って。
すごく、似ていた。
……出会ったときから、藤村祥子の瞳は当時の俺の目によく似ていた。
今だからわかる。戦いの中で多くの人間に支えられ、助けられ。戦後も多くの人間のおかげで今があると理解しているから、わかることがある。
自分を正当化するためにそれ以外のものを否定するくせに、自分を肯定できるわけでもなく、でも、進む以外に道はないと思い込んで突き進む。……その道はいばらの道だ。
そして、本当のゴールを用意していない。いばらの迷宮だ。
「藤村さん……」
わかっているから、言葉が見つからない。追いかける必要があると思いながらも、それでも俺は昼休み終了の予鈴が鳴るまで、ただ茫然と立ち尽くしてしまった。
教室に戻ると、藤村さんの姿があったが、それでも何を話せばいいのかわからなくて。
そうこうしているうちに、放課後になってしまった。
いろいろな気力が無くなったような気分で、どこから来るのかわからない脱力感を味わいつつ、下駄箱で靴に履き替えていると、
「渚くん」
「……朱音」
今日も、昇降口で朱音が待っていた。
「ちょっといいかな?」
「うん」
一人でいるのはきつかった。いや、朱音の顔を見たら、なんだか少し元気になれた。朱音がいてくれるだけで、俺がどれだけ救われていることか。
二人並んで校門を出たところで、朱音はすぐに口を開いた。
「お父さんが、渚くんに用があるみたいなんだよね」
「え? ……昨日のお泊りの件でしょうか?」
「え!? あ、ち、違うよ!」
違うなら良かった。……どうやらいろいろと思い出してしまったようで、朱音は頬を真っ赤に染めている。見てると癒される。
「それじゃあ、なんの用なんだろう?」
「んー。私も、それがよくわかんなくて……」
「まあ、わざわざ呼び出すくらいだから、大事な用なんだろうし……今日行けばいいかな?」
「あ、うん。たぶんそれで大丈夫だと思う」
アグレッサーの件で続報でもあったのかもしれないな、などと考えつつ、朱音と話をしながらマンションまでたどり着くと、センチュリーがすでに待っていて、いつぞやのように二人で乗り込んだ。
車がゆっくりと発進すると、
「ねえ、渚くん」
そこには、何かを決意したような真剣な朱音の表情があった。
「なに?」
「昨日、私が言った言葉、忘れないでね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます